ネオノミコン / アラン・ムーア(作)、ジェイセン・バロウズ(画)、柳下毅一郎(訳)
人間をチューリップ型に切り裂く異様な殺人事件、古い教会を改築したクラブに蔓延する謎の白粉……頻発する怪事件を解決すべくFBI捜査官メリルとゴードンはマサチューセッツ州セイラムのオカルトショップに向かうが……ラヴクラフトの内なる深淵に迫り、時空を覆す宇宙最凶の暗黒神話、ここに始まる!【2012年ブラム・ストーカー賞グラフィック・ノベル部門受賞作】
『ウォッチメン』『フロム・ヘル』『Vフォー・バンデッタ』など、様々な問題作を生み出してきたアメコミ界の鬼才アラン・ムーアが、クトゥルー神話に挑戦したコミックである。クトゥルー神話の傍流作品は数あるが、アラン・ムーアがいったいどう料理するのか?が本作の見所だろう。タイトルは『ネオノミコン』、いわば「新たなるネクロノミコン」といったところだろうか。
物語は連続猟奇殺人事件を追うFBI職員が、不気味な男による情報に導かれ、怪しげなパーティーに参加するところから始まる。ここからもうずっぽりと「大クトゥルー大会」へと発展してゆくのは言うまでもない。実のところオレはラブクラフトやクトゥルー神話の熱心な読者ではないのだが、クトゥルー神話のキーワードをあちこちに散りばめながら進行してゆく物語は昏い喜びに満ち、読んでいて実に楽しかった。
この作品におけるアラン・ムーアらしさは『フロム・ヘル』を思わす血腥さと淫蕩さだろうか。グラフィック・ノベル『フロム・ヘル』は切り裂きジャックの真相に迫る作品だが、陰惨な死と狂った淫蕩さを描き、それが黒魔術世界へと繋がってゆく恐るべき物語だった。おぞましい性的暴力を中心的にクローズアップしている部分は吐き気を催すほどの生理的嫌悪を感じさせ、ラブクラフト的なコズミック・ホラーであると同時にまた別種の恐怖をも描く作品となっている。
なおこの作品はアラン・ムーア版クトゥルー神話4部作の第1巻目となるものらしい。続いて『プロビデンス』ACT1~3巻が順次刊行される予定だという。これは楽しみだ。