家から出ちゃうと殺される!?〜映画『あなたがいてこそ』

■あなたがいてこそ (監督:S・S・ラージャマウリ 2010年インド映画)

I.

土地を相続してホクホク顔でその村に入ったら、遠い過去地元の豪族と血なまぐさい因縁があったことが分かってしまい、命を狙われてさあ大変!?というテルグ語のロマンチック・アクション・コメディです。監督はハエが主人公!?という前代未聞の大傑作コメディ『マッキー(2012)』(レビューはこちら)を撮ったS・S・ラージャマウリ。『マッキー』がとても素晴らしい作品だったので楽しみにしていました。ドキドキしちゃうシリアスな設定ながら、笑いとロマンス、歌と踊りもふんだんに盛り込まれた作品ですよ。

主人公は宅配業を営むサエないおっさんラーム(スニール)。仕事で使う自転車があんまりボロなもんですから配達は遅れてばかり、遂に仕事をクビになって万事休す。そんな時故郷の土地を相続していることを知り、これを売って仕事の立て直しだ!とばかりに意気揚々と生家に向かい、そして乗り込んだ電車で出会った美しい娘アパルナ(サローニ)に魅せられます。さて降りた村で自分の土地を訪ね、その土地を売るには地元の豪族ラミニドゥ(ナジ二ードゥ)を頼ればいいことを知ります。ラミニドゥの豪邸に入るとなんとそこはアパルナがいました。彼女はラミニドゥの娘だったのです。

ホクホク顔のラームでしたが、そこである大変なことが発覚!なんとラミニドゥ家とラーム家では過去血で血を洗う抗争が起こり、その因縁からラームはラミニドゥ家から「仇の息子」として命を狙われていたのです。ただしラミニドゥ家には「家にいる間にはどんな相手でも手厚くもてなす」という絶対の家訓があり、それにより家にいる間はラミニドゥ家の人間はラームに手がだせない!かくして、なんとしてでも家から出そうとするラミニドゥ家と、絶対家から出たくないラームとの、七転八倒のドタバタが開始されちゃうんですね!

II.

この映画を面白くしているのはまず主人公ラームのキャラクターです。小心者で何をやってもダメなおじさんラームは、いつもあっちで叱られこっちで睨まれ、散々な目に遭ってばかりいますが、根は美しい心を持った素直な正直者、そしてそんな性格だからこそラミニドゥ家の娘アパルナはラームに惹かれてしまうのです。このアパルナとラームとの、お互いがお互いを気に入っているのにそれに全然気が付かない、というじれったさが話を盛り上げ、そしてそんな二人の心のすれ違いが、クライマックスに用意された大スペクタクルをとんでもなく盛り上げる、という部分が実に心憎いシナリオです。さらにこのダメ青年ラームが、命を狙われていることを知り、非力なのにもかかわらず懸命に方策を練り、頓珍漢ながらあっと驚くアクションを繰り出してしまう、という部分がまた楽しさを盛り上げます。

一方ラームの命を狙うラミニドゥ家の面々は、簡単に人の命を奪うとってもコワ〜イ顔をした冷血漢として描かれながら、「家にいる間は手を出せない」というルールがあるばかりに何度もラームに裏をかかれ、毎回コワ〜イ顔しながら地団太を踏んでいる、というおマヌケさがとっても可笑しいんです。このラミニドゥ家の面々が、家と外を分かつ敷居の後ろに群れをなして立ち、「ラームが出て来るぞ!」と言われて「うお〜!」と気勢を上げ、「やっぱり出て来ない!」と言われて「グヌヌ!」と臍を噛む、この繰り返しが何度も描かれて笑いを誘うんですね。そしてこのラミニドゥ家の面々、確かにヤクザな連中ながら、礼節を重んじ地元を愛する、といった部分で、単なる冷徹残虐な暴力集団といった描かれ方は決してしていないんですね。

III.

さらにこの作品を面白くしているのは不思議な「喋る自転車」の存在です。この「喋る自転車」君は冒頭から持ち主であるラームの手荒な扱いにブーブー文句を言っているのが描かれるんですが、ラームはそんなことは気付いていないんですね。この「喋る自転車」君、ライトの部分がぶわぶわ動くCGが施されており、あたかも生きているようにすら見えます。この「喋る自転車」君とラームが後半どう関わるのか…がこの映画のもうひとつの見所です。しかしS・S・ラージャマウリ、『マッキー』でも単なるハエを生き生きとしたキャラクターとして動かしていましたから、こういった非現実的な不可思議さを物語に持ち込むのが大好きな監督のようですね。S・S・ラージャマウリ監督作品は『あなたがいてこそ』と『マッキー』しか観ていませんが、過去作を調べるとやはりファンタジックで大胆な作風の作品が並び、是非観てみたいと思わせました。

ヒロインのアパルナを演じるサローニさんは人懐こい顔した庶民的な美人ちゃんでした。このアパルナと幼馴染の青年との結婚話も、物語をややこしくさせて実に効果をあげていましたね。インド映画に付き物の歌と踊りはこの作品でも煌びやかで豪華、とっても楽しいものでしたが、テルグ映画だからなのでしょうか、ボリウッド作品よりも豪快でトリッキーな踊りが多くて、これも見所ですね。さてラームは生きて家を出ることができるのか?ラミニドゥ家の怒りは収まるのか?そしてラームとアパルナの禁断の恋の行方は?物語はクライマックスに向けて盛り上がってゆき、そして『あなたがいてこそ』という日本タイトルらしいロマンチックで胸を熱くさせる大団円へとひた進みます。

ところでこの作品、一見して、「あれ、なんか見たことがあるような…」と思ったんですが、これ、ちょっと前にDVDで観たボリウッド・ムービー『Son of Sardaar』(レビューはこちら)と同じプロットなんですね。実は2012年公開の『Son of Sardaar』が2010年公開のこの『あなたがいてこそ』のリメイクだった、ってことなんですね。しかし比べてみると『あなたがいてこそ』のほうが断然高い完成度を誇っており、『Son of Sardaar』は惜しいことに劣化コピーどまりの作品でした。しかもストーリーは若干改編されているんですが、改編前の『あなたがいてこそ』のほうがはるかに出来がよくその雰囲気も情緒豊かなんですよ。そんなわけで『Son of Sardaar』を観ていても全然楽しめる作品でした。

http://www.youtube.com/watch?v=k6mZrOlrcl0:movie:W620

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