『THE MOON』『マイ・スイート・ハニー』『ブルドーザー少女』など最近観た韓国映画あれこれ

『THE MOON』

THE MOON(監督:キム・ヨンファ 2023年韓国映画

月面有人探査船が事故を起こし、たった一人月に取り残された男の救出劇を描くSF作品。韓国のSFというのも珍しいので興味深く観ていた。宇宙探査における事故を描いた作品としては『アポロ13』や『ゼロ・グラビティ』、『オデッセイ』などのハリウッド作品を思い浮かべるが、よく似た状況を描いているにもかかわらず見せ方が全く違う部分に面白さを感じた。先に挙げたハリウッド作品では、科学合理主義とアメリカ的な不撓不屈の精神性が伺えたが、韓国の手になるとこれが相当に情緒的な描写に舵を取っているのだ。中国SF映画でも同様な情緒性を感じるので、ある意味これはアジア的とも言える。この情緒性は最初は面食らわせられたものの、観ているうちにこれはこれでアリなんじゃないのかと思えてきた。アジアがアジア的なのは当たり前だしね。

展開には強引な部分も感じるし、SF考証には首を傾げる部分もありはしたが、エンタメ作品として映える展開ということであれば、これが大きく功を奏しているのだ。ドローンを駆使した月面探査シーンは新鮮だったし、このドローンが後々大きな鍵となるという伏線の貼り方も悪くない。月面を襲う流星雨があたかも火山弾のように大量に降り注ぐ場面も実際あり得るものなのかとは思ったが、SFスペクタクルシーンとしてはこれも相当に新鮮さと興奮をおぼえた。クライマックスの脱出シーンも一見無理矢理のように思えて、月の重力を考えるなら意外と間違っていないのかもしれない。無茶なことはやっているが無茶苦茶という訳ではないのだ。なによりこの映画、月面描写のCGIが他の追従を許さないほどに美しいことは特筆に値する。そういった部分でスレスレにSFらしさとエンタメ的面白さを折衷しており、SFファンのオレでもある程度納得できたし、SF的醍醐味を大いに感じることができた作品だった。

マイ・スイート・ハニー(監督:イ・ハン 2023年韓国映画

オッサン顔がイイ味を出している韓国俳優ユ・ヘジンが結構好きなのだが、そのユ・ヘジン主演によるラブコメディということで観てみることにした。お話としては超奥手で恋愛経験ゼロに等しい独身中年男チャ・チホと、超積極的で超前向きな中年シングルマザー、イ・イルヨンとの出会いを描くもの。ラブコメとはいえ恋愛に対するチャ・チホの鈍感さはちょっとあり得ないほどだし、そんなチャにイ・イルヨンがズカズカと攻めよってくる様子は加減がなさすぎ観ていて引くのだが、ユ・ヘジンが可愛い演技に徹しているので「まいっか」と思えてくる。とはいえ説明不足過ぎる設定と展開の強引さ、無意味にしか思えないエピソードの連続で観ていて結構辛いものがあった。特に後半はあれやこれやと駆け足に見せ場を作るのだが、煩雑すぎてシラケてしまう。そのため10話ぐらいのドラマの短縮版を大急ぎで見せられているような気さえしてしまった。ユ・ヘジンはいいんだけどなあ。

ブルドーザー少女(監督:パク・イウン 2022年韓国映画

ブルドーザー少女

ブルドーザー少女

  • キム・ヘユン
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既に母を亡くし、借金塗れの父親は事故で意識不明の重体となり、社会のありとあらゆる歪みと重圧に打ちひしがれる主人公少女の叫びを描く格差社会映画。まあしかしこの父親というのも実は騙されていたとはいえあまりに考えなしの無能だし、事故にしても激情に駆られて暴走してしまった結果だし、主人公少女にしても社会的弱者でありその生い立ちに同情はできるのだけれども、これもまたあまりにも直情的過ぎる性格で考えなしに喚くは暴力行為に出るわの無茶苦茶しかできず、これではいくら相手に非があろうとも伝わらないし世間にも理解もされないだろう。要するにやることが子供でしかなく、これでは大人にいいように扱われてしまうだけではないか。そして最後にはブチ切れてブルドーザーで暴走してみせるのだけれども、実のところ何一つ解決しているようには思えない。とりあえず暴れたんで落ち着きました、というラストはあまりに投げっぱなしだろう。