一ヶ月主夫の思わぬ顛末

Unsplash/Todd Quackenbush

今度は一ヶ月半主夫の予定だった。

7月の終わりから9月頭まで一ヶ月半ほど、横浜に住んでいる相方が東京のオレのアパートに寝泊まりすることになっていた。相方は建築関係の仕事をしており、いつもは神奈川県のあちこちの現場を拠点としながら職務をこなしているのだが、今回は東京で一ヶ月半ほどの現場があるという事で、オレのアパートから通勤したほうが時間的に楽なのだ。

数年前もこれと似たようなことをしていた。その時相方は二ヶ月間オレのアパートに滞在し、その間、料理とその片付け、それと洗濯は全てオレが引き受けた。いつもオレなんかよりずっと激務の相方へのオレなりの御奉公だった。その時の一部始終はブログに書いた。

オレは今回も前回と同じように食事や洗濯の世話をすることを快く引き受けた。もちろん布団もオレが敷くというお客様待遇である。オレは奉仕の人なのである。というより前回の反省点を活かせるのが楽しみでもあったし、料理に関してもあの頃よりは上達していると自負していたので、ここは腕の見せどころじゃないかとすら思っていた。実はオレは割と料理を作ることが好きなのだ。

相方に出してあげたいメニューは彼女が滞在を開始する前に予習代わりに一通り作って自分でも食べてみた。また、前回は時期が冬だったので煮物など冬らしいメニューが並んだが、今回は夏という事で、夏野菜や素麺を使ったレシピを増やしてみることにした。こういった料理の幾つかには、炊き込みご飯など一人だと量的に作り難いものや、食材が若干高価なので滅多に作らない料理なども含まれたが、これはそういった料理を一度作ってみたかったのでメニューに加えてみたのだ。また、今回は相方の嗜好を加味して、フルーツのデザートなども振舞ってみた。

二人で大掃除をした。

とはいえ、料理こそ上手く作ることができたが、それとは別に相方から「部屋が埃っぽい」とクレームが付き、二人で大掃除することになったのは想定外だった。まあ自分なりに掃除はしていたものの、やはり結構御座なりだったらしい。そのため二人で家庭用雑貨の店に赴きあれこれと掃除用具を揃え、夏の暑い日に二人で大汗掻きながら念入りに掃除をしたのだが、大変ではあったけれどもこれはこれで楽しい思い出となった。自分と相方のシーツや布団カバーなどももう一度洗い、布団も改めて全て干した。全て終わると部屋は爽快な居心地となっていた。

なにしろ前回でいろいろ体験済みだったので、困ることは殆どなかった。洗濯は週に3回ほどこなしたし、相方は仕事疲れか早く寝てしまうので、その後オレは自分が眠くなるまでイヤホンをしながらパソコンでサブスク映画を観ていた。相方は週末は自分のアパートに帰っていたので、その間だけがある意味自由時間だったのだけれども、一人でいると大概はDVDやサブスクを眺めながら酒を飲んでいるだけなので、別に有意義とか言うほどのものでもない。

そういえば前回もそうだったのだが、同居を始めて2週間ほどでお互いの体重が若干減っていることが確認できた。これはオレの料理が不味くて食べられたものではないという事では断じてなく、一人でいるとお互いついつい多めの量の食事を摂ってしまうのと、オレの場合はダラダラと酒を飲んでしまうせいもあり、カロリー過多だった部分が改善されたのだろうと思う。それとやはり会話しながら食事をすると、程よい量で食事に満足してしまうのだ。

突然大問題発生。

そんなこんなで8月も終盤に入り、あと2週間ほどで主夫ミッションも終了、残りの日程も悠々自適で過ごせる筈だったが、ここで大問題が発生してしまった。なんとオレが新型コロナに罹ってしまったのである。

あれは8月の21日月曜日、朝から妙に熱っぽく喉も痛み、体温を計ると37.5度、その後瞬間的に38度まで上がり、これは不味いと手持ちの検査キットで調べると見事に陽性、職場に事情を説明し、1週間の自宅療養ということにしてもらった。不幸中の幸いだったのは相方が金曜夜からずっと自分のアパートに帰っており、潜伏期間を3日と考えるとギリギリうつしていないであろうという事だった。

相方とも連絡を取り事情を説明し、非常に残念だが少なくともこれから1週間から10日はオレのアパートに来ることができない旨を告げた。実は相方の仕事はラストスパートに入っており、この時期にオレのアパートに来れないことで彼女の負担が大きくなってしまうのだが、こればかりは致し方なかった。その後のやりとりから相方にはうつしていないことも分って安心した。

コロナのほうは高熱が出たのは最初の一日だけで、2日目3日目には37度前後、この日までは多少のだるさはあったが、4日目には平熱に戻っていた。鼻水や咳といった風邪症状は若干あったものの体調的には特に問題はなく、後遺症的な症状も現れず、とはいえ出歩くわけにはいかないから部屋でずっと読書したり映画を眺めたりしていた。まあ今回に関しては殆ど単なる風邪であった。そもそも最初からそれほどしんどくも無かったので楽観視はしていた。

7日間の自宅療養、そして一ヶ月主夫の終了。

という訳で唐突に7日間の自宅療養という名の引きこもりな休日を過ごしてしまった。病気を別にすればオレは引きこもりが得意なのだなとしみじみ思った。冷蔵庫には結構な量の食材があったので(相方に出す料理のために割と買い溜めしていたのだ)、最初の日以外は毎日3食粗末ではあるがなにがしかの料理を作って食べていた。この間、ブログにもSNSにもコロナの事は書かないことにしていた。あまり心配を掛けたくなかったのだ。症状が殆ど風邪並みの軽さだったこともあって、あまり大騒ぎしたくなかったというのもあった(その間ブログはずっと更新していたが全て下書き済みの記事である)。そして今は健康なのでやはり誰も心配しないでくれると助かる。

それよりも相方が一番忙しい時期に病気になってしまい、彼女への協力が中途半端に終わってしまったことが何よりも痛恨の極みだった。オレのほうは7日間の自宅療養も終わり次の月曜からは職場に復帰したが、ついこの間までコロナに罹っていた人間の部屋に再び相方を戻らすのも塩梅が悪い話だし、相方の仕事もあと1週間ほどで山場を過ぎるという事から、相方のオレの部屋での滞在は結局先々週で終了、オレの一ヶ月半主夫の予定は一ヶ月間主夫に短縮されてお終いという寂しい結果となってしまった。予定していたことをきちんと終わらせられなかったのはやはり悔しいことなのだ。

この間の日曜日に相方が荷物を取りに来るというので部屋を換気して待っていた。荷物を渡し体調が万全であることも報告し、来週からは普通に会えるだろうと話した。と思ったら相方は来週は試験があるのでこれまた会えないらしい。これもまた致し方ないことだ。それにしても相方には本当に悪いことをした。次に会った時には懺悔がてら思いっきり美味いものを食い美味い酒を飲んで楽しもう。美味いものも美味い酒も健康があったればこそだしな。とまあ以上がオレの一ヶ月主夫の思わぬ顛末とその反省である。