しがないバイト生活してたら「キツイけどいい仕事あるからしてみない?」と誘われて行ってみると異世界で怪獣の世話をする仕事だった!?/SF長編小説『怪獣保護協会』

怪獣保護協会 / ジョン・スコルジー (著), 内田 昌之 (訳)

怪獣保護協会

映画のゴジラは、並行宇宙の地球〈怪獣惑星〉からこちらの地球にやってきた巨大怪獣がモデルだった! ジェイミーはひょんなことから〈怪獣保護協会〉の一員となり、もうひとつの地球でこの怪獣たち相手に大奮闘することに!? 『老人と宇宙』著者の冒険SF!

『しがないバイト生活してたら「キツイけどいい仕事あるからしてみない?」と誘われて行ってみると異世界で怪獣の世話をする仕事だった!?』というラノベのタイトルがぴったりのSF長編、それがこの『怪獣保護協会』です。作者の名前はジョン・スコルジー、あの傑作宇宙SF『老人と宇宙(そら)』シリーズで大人気となったSF作家なんですね。これは楽しそうではありませんか!

主人公の名はジェイミー、不本意な理由で突然職を追われケータリングの仕事で糊口を凌いでいた彼がひょんなことから知り合った(それにしても「ひょんなこと」の「ひょん」って一体何なんですかね?)男からとある仕事に誘われて行ってみると、そこはこの地球と隣り合わせとなった並行宇宙の別の地球、そこには危険極まりない生物の蠢くジャングルが生い茂り、さらには異様な姿をした巨大生物たちが闊歩していたのです!そう、その威容はまさに「KAIJYU」!そこでジェイミーは言い渡されます、「で、仕事ってのはこの怪獣の世話係だから。じゃあヨロシク!」そう、ジェイミーの新たな仕事とは、秘密組織「怪獣保護協会(KPS)」の一員となり、おっかない巨大怪獣たちの世話をすることだったのです!

「並行宇宙に怪獣が住んでいるのは分かったけど、なんでその怪獣をわざわざ世話しなきゃいけないの?」と思ったあなたはスルドイ。物語に興味を持っていただく為にちとネタバレを交えつつ説明しますと、この怪獣、実は体内に生体原子炉を有しており、これにより生物として活動しているのですが、この生体原子炉がなにがしかの理由で不安定になると核爆発を起こしてしまうんです。そしてこの核爆発、それによらず地球側の核爆発がこの並行宇宙の地球と我々の棲む地球の次元的境界を消失させ、怪獣たちが我々の棲む地球に足を踏み入れる事を可能にしてしまう、ということが分かっているんですね。なぜならそんな事件が過去にあったからです。それは1951年、水爆実験のあったマーシャル諸島環礁に突如現れた怪獣でした。……そう、なんとゴジラなんですね!(あくまでモデルってことですが)つまり「KPS」は怪獣の保護と監視を行う事で我々の棲む地球を怪獣から守るのが目的の組織だったんですね。

こうして物語は怪獣のみならず危険生物の蠢くジャングルで少しずつ様々な仕事を覚えてゆくジェイミーの毎日が描かれてゆくことになります。そしてそこはジョン・スコルジー、筆致はあくまで軽やかでテンポよく、タフな仕事を担うタフな人々特有の、ジョークと軽口に満ちた愉快な会話が次々と繰り出され、何度もクスリと笑わされること必至のユーモラスなSF作品として展開してゆくんですね。ひとえにこの作品の魅力は、この徹底したユーモアセンスにあると言って過言ではないでしょう。インテリ科学者ばかりのKPSでたった一人雑役係を担うジェイミーが、「俺は”物を持ち上げる仕事”の人だあ」と繰り返し語る様子も可笑しいし、とにかく常に悪臭塗れとなるイヤ~ンな展開も笑わせます。ジャングルでの生き死ににまつわるジョークも残酷かつタフでニヤニヤさせられるんですね。

こういったユーモア展開のみならず、SF的な設定もなるほどと頷かさせられるしっかりしたもので、日本の「怪獣」にもきちんと目配せされている部分も心憎い。さらに巨大怪獣と接することになるエピソードは緊張感に満ち、物語の核心に近づいてゆくにつれ恐るべき危機と陰謀が持ち込まれ、絶妙な緩急を味わうことができるんです。作者のあとがきによると「長編として書いていた別作品のデータがぶっ飛んで白紙になり、出版予定に間に合わせるために頭を切り替えて急遽書き上げた作品」だったということですが、そのスピード感とポジティヴィティが作品それ自体に功を奏して傑作となったということができるんですね。ホントに何が福へ転ずるのか人生というのは分からないものです。そんなわけでジョン・スコルジーの『怪獣保護協会』、サクッ!と読めて大いに楽しめる良作SF長編なので皆さんにも是非お勧めしたいです。