「老人と宇宙」シリーズ第5巻『戦いの虚空』は新たな章の始まりだった!

■戦いの虚空 (老人と宇宙5) / ジョン・スコルジー

戦いの虚空 (老人と宇宙5)

コロニー連合は、兵士と植民者の供給を頼っていた地球に関係を断たれた。このままでは防御を失った人類の惑星は、技術力に欠ける地球も含めて、30年で絶滅する――そのころ、コロニー防衛軍のハリー・ウィルスンは、外交団の一員として、ろくでもない任務に追われていた。しかし、その奮闘により、連合と地球との関係に希望が見えてきたとき、謎の敵が攻撃を仕掛けてくる……。陰謀渦巻く〈老人と宇宙(そら)〉シリーズ第5弾!

ロバート・A・ハインライン作のミリタリーSF『宇宙の戦士』の再来」とまで呼ばれるジョン・スコルジーの『老人と宇宙(そら)』シリーズ最新作第5巻です。このシリーズ、実は中心となるお話は3巻目ぐらいで終わっていて、4巻はその追補編みたいな作品だったもんですから、さらにこの5巻まで出てしまうとは思いませんでした。続きを期待するファンの熱い要望に作者が気圧されたってことなのでしょう。
遥かな未来、宇宙はさまざまな知的種族によりコンクラーベと呼ばれる宇宙同盟を組織しつつあったんですな。一方人類はそれに与せず様々な植民星からなるコロニー連合を形作っていたのですが、ただひとつ地球だけは蚊帳の外にされ、そんな宇宙の趨勢を知らされることも無くコロニー連合に兵士と植民者を供出していたんです。しかしあることがきっかけでコロニー連合の欺瞞を知った人類は、コロニー連合との関係を断とうとします。そんな地球を懐柔しようと交渉を続けるコロニー連合でしたが、この交渉を決裂させようと謎の組織によるテロ活動が頻発する…というのがこの『戦いの虚空』の背景です。
さてこの第5巻、これまでの1〜4巻で主人公となっていたジョン・ペリーとその一家は残念ながら登場せず、「伝説の人物」といった扱いになっています。その代りに主役を務めるのがコロニー防衛軍のハリー・ウィルスン。彼が随行する外交チームはコロニー連合では最低ランクの雑用扱いなチーム。しかし、彼らは持ち前の気転と行動力で様々な無理難題を乗り越え、次第に暗躍するテロ組織の陰謀へと肉薄してゆく、というのがこの『戦いの虚空』です。
物語はウェブ連載という形式で発表されたものをまとめた形になっています。構成はハリーら外交チームの活躍と、その背後で進行する陰謀が交互に描かれ、それぞれのエピソードは一触即発の危機を描いたものもあれば宇宙のあちこちで進行する不気味な陰謀を描いたもの、スコルジーならではのとぼけた笑いが描かれたものなどさまざま、こういった構成で書かれたせいなのかこれまでのシリーズの中で一番分厚い分量になっていますね。
逆に沢山の細かなエピソードを積み上げて物語られている分、物語の求心力がばらけてしまい、ウェブ連載で毎週読むのならならこれが醍醐味だったんでしょうけれども、1冊の小説として一気に読もうとすると、小粒のエピソードをちびちび読まされているような気分になってくるんですよ。物語はアクションよりも対外交渉と陰謀による細かな事件にウェイトが占められ、そういった部分でもこれまでのシリーズと比べるなら若干地味目に思えてしまうかもしれません。
ただしこれが最終章、地球上空の宇宙エレベーターを舞台にした大スペクタクルへとなだれ込むと、これまでの欲求不満が一気に吹き飛ぶようなド派手でめまぐるしい展開を見せつけられます。大破壊もドンパチもなんでもありです。そして要所要所で笑わせてくれるスコルジー節ももちろんアリです。いやー最初っからこのテンションでやってくれればいいのにスコルジーさん!しかもここで物語は一応の結末を迎えるのですがまだ全ては終わってないことになっているんですね。いや、どうも新章突入ということらしいんですよ。また次回もウェブ連載形式みたいなんですが、今度は初っ端からもっと飛ばして下さいスコルジーさん!
ジョン・スコルジーの『老人と宇宙(そら)』4部作読んだ (その1)
ジョン・スコルジーの『老人と宇宙(そら)』4部作読んだ (その2)

戦いの虚空 (老人と宇宙5)

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