《目次》
2ヶ月間主夫をすることになった
今年の1月あたまからこの2月の第4週まで、約2ヶ月間弱、主夫をしていた。
オレの相方は建築関連の仕事をしているが、とても残業が多く、工事が後半ともなると帰宅時間が11時を過ぎ、酷い時には泊まりにもなり、おまけに土曜日曜も出勤という状態になる。眠る時間もまともなものを食べられる時間もなくどうしたって心身ともに疲弊しきるだろうが、オレには何もしてあげられることができなかった。
オレと相方の付き合いは10年以上になるが特に結婚はしておらず、別々に住んでいる。この辺の個人的な事情は割愛させてもらうが、そんな相方の今度の現場がオレの住処に比較的近いのだという。それなら、通勤時間短縮になるから工期が終わるまでオレの部屋に住めば?と聞いてみたのである。
ついでに夕飯は全てオレが作ろう。そうすれば遅く帰ってきても夕飯をすぐ食べられてすぐ寝られる。洗濯ものも全部任せてもらっていい。洗って取り込んで畳んでおく。オレの部屋だから掃除をする必要もない。通勤時間が短い分睡眠時間を確保でき、日常の雑事に追われることも無い。今まで何もしてあげられなかったから、せめてこのぐらいはさせてくれ。
相方はこの話に乗ってくれて、そうして年が明けてすぐ、幾つかの必要な衣類と日用品を持ちオレの部屋に越してきた。期間は工事があらかた終わる2月末までだった。
毎日メニューを変えてみた
懸案となるのは夕食のメニューである。オレも一人暮らしは長いし、自炊もするが、言ってみれば"男の料理"であり、殆どが栄養の偏ったジャンクか酒のつまみで、レパートリーも少ない。だが相手はきつい労働をして帰ってくるのだからきちんとしたものを食べさせたい。おまけに相方は自らを"野菜厨"と呼ぶほど野菜好きであり、日々様々な野菜をメニューに入れなければ納得してもらえないだろう。
こうしてオレの毎日はネットでレシピ集のホームページと睨めっこすることが中心となった。オレは今回の"主夫生活"でひとつ自分に課したことがある。それは2ヶ月間毎日メニューを変えることだ。相方にそう請われた訳では全く無いが、ハードルを上げることで、モチベーションを高めようとしたのである。2ヶ月を終えてから振り返ると結局メニューがダブったのは2回ほどであり、しかもそれは相方がもう一度食べたいという事からだった。
時間的予算的制約はあったが、このハードルは別にきつくはなかった。むしろゲーム感覚でこなしていった。毎回ほぼ1週間分の食材を買い込み、それらをあれこれ組み合わせ、傷みやすいもの、保存の効くものを考慮しながら料理を作っていった。ただこの時、ひとつ問題が発生した。それは今年初頭から続くことになる野菜価格の高騰である。特に葉物野菜の値段の高さには頭が痛かった。
思わぬ出来事もあった
もうひとつ思わぬ問題が出た。オレの仕事が予想を超えた忙しさだったのだ。年初が正月休みの影響で多忙となるのは毎年のことだった。だがその期間を過ぎればたいてい夜7時8時に家に着けるようになるのが通例だった。だからこそオレは相方に夕食を作るのは余裕だなと考えていたのだ。ところが1月後半を過ぎ2月に入っても仕事の量は減らず、あろうことかさらに増え始め、2月半ばには何度か相方が家に着く時間ですら帰る事が出来なくなった。これらの日は相方に何か買ってきて食べてもらうことにした。
些末な問題としては、二人で生活をすることを考えていなかったので去年買った冷蔵庫が小さくて食材を多く保管できなかったことだろうか。とかいいつつ、常にビールは何本もきっちり冷やしていたが。洗濯が頻繁になったのも若干予想しなかった。自分一人だと週一で済んでいたから週2回ぐらいになるかな、と予想していたが、相方の洗濯物の量は意外と多く、結局週3回程度でなければ間に合わなかった。
料理をするのは楽しかった
相方に夕飯を作るために自分の時間が無くなることは全く気にならなかった。一人で生活している時の自分の時間というのは、ただ単にダラダラと酒を飲みつつダラダラとジャンクフードを口に放り込み、そしてダラダラとどうでもいいような映画を観つづけていた自堕落極まりない時間でしかなかったからである。その中にはダラダラと誰も読みもしないブログ記事を書き続けることも含まれる。これらを止め料理と洗濯に時間を割くことになったが、無為な日々が目的のある日々になることに問題がある筈がなかった。
そして料理をすることもそのメニューを考えることも楽しかった。自分一人だと時間を掛けて料理することが無駄に思えてしまい、それもあってジャンクな食生活を続けていたオレだが、誰かの為に料理を、それもなるべく美味いものを作ろうとメニューを検索し、初めて作るその料理に試行錯誤するのは、「ひとつの完成したものを作る」という意味においてイマジネイティブなものだった。そしてきっちり美味いものが出来た時の達成感はひとしおだった。とはいえ、実の所何度か失敗もし、塩っ辛いだけとか煮過ぎ焼き過ぎとか量が貧弱とか手抜きがモロに反映したりとかもあり、決していつも美味いものが出来ていたわけではないのは正直に告白しておこう。
こうして2ヶ月は過ぎて行った
こうして毎日は過ぎ、2月も終盤となった先週金曜日、オレは相方に最後の料理を作ってミッションは終了となった。この間、相方の帰宅時間はほぼ10時から11時過ぎ、ときたま8時9時、泊りが1回、2ヶ月の間で休むことが出来た日が1・2回、それとは別に風邪で休んだか半休にしたのが1回だろうか。仕事に追われ本当に大変な毎日を過ごしていた。だが嬉しかったのは、この生活の後半、睡眠時間が多くとれるようになったせいか、相方が早起きして一人で寛いでいた日が何日かあったことだ。多少なりとも健やかさを取り戻せるようになってくれたのなら、オレのささやかな努力も無駄ではなかったということなのだろう。
惜しむらくは予定していたメニューを全てこなせなかったことだろうか。鍋物もやろうと思い、持っていなかった鍋セットも購入したのだが、深夜に帰宅して鍋もないだろうと、結局することがなかった。ひとつ面白かったのはこの2ヶ月で二人とも体重が2キロほど減ったことである。オレの料理が酷かったから……というのもあるかもしれないが、栄養バランスの良い料理を毎日適量で、しかも一緒に食べる人がいる状況で食べていたからこのような結果になったのではないかと思う事にしている。実はオレも相方も、仕事がおしてくるとストレスからドカ食いしてしまう癖があったのだ。
そしてこれらのことは、あくまで最初から2ヶ月限定ということが念頭にあったからこそできたことで、実際に何年も何十年も主婦なり主夫をされている方にとっては鼻で笑ってしまうようなちゃんちゃら可笑しいお遊びにしか見えないだろう。そういったことは重々承知している。下らない記事だとそしられても当然である。ただ、個人的な体験として、これらが非常に目新しかったという意味で面白かったので書いてみただけだ。
そういえば、10数年は使っているオレの包丁はまるで切れ味が悪くて相方にも不評だったのだが、主夫ミッションが終了してからやっとまともな包丁を買うことにし、少々お高かったが今はそれで料理をしている。これがもう、どんな野菜も肉もバター切ってるみたいにスイスイでさあ。うわあ、なんか包丁揃えたくなってきたぞ……。
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