定年だった

この10月で定年となった。オレの会社は現在62歳定年となっており、9月生まれのオレは先月までが雇用期限だった。在職年数は34年7ヵ月。入社年月日は平成2年3月1日、退職年月日が令和6年9月30日。つまり会社に勤め始めたのは28歳ごろということになる。定年後は今の会社のグループ企業に再雇用となり、そこからの嘱託という形で同じ職場で同じ仕事を続けることになる。要するに定年にはなったが仕事はしているということである。

ここでこの34年7ヵ月をちょっと振り返らせてほしい。28から勤めたと書いたが、それはその年までフリーターだったのだ。だがさすがに30間近で無職のフリーターというのもまずかろうと、特に何も考えることなくバイト先の目の前にあった会社に雇ってくれと駆け込んだのである。ちょうどバブル末期で景気もまだ活況を呈しており、ちょっとした面接だけですんなり就職できた。その程度にユルい時代だった。バイトは倉庫作業だったが就職した会社も倉庫業だった。要するにゲンバというヤツであり、3K労働だったが、学歴もスキルもおまけに向上心もないオレにはこのぐらいがせいぜいだった。

就職先であるその会社は好景気に乗って増収増益となったが、儲かったことでさらに欲が出た社長は社労士と結託して給料その他社内規定をどんどんとブラック化していった。残業代支給月30時間分までとされながら毎日深夜残業をやらされ給料もまるで上がらなった。社長の近縁で構成された役職からの暴言無理難題も後を絶たず退職者も続出した。オレも不条理な業務と薄給と長時間のサービス残業で疲弊しきっていたが、転職するほどの意気もなく、鬱々としながら毎日を過ごしていた。

そんなある日会社ナンバーツーである一人の重役が反旗を翻し、巧妙な策略を巡らせた後にこの会社を別会社と吸収合併に持ち込み、社長並びに近親役員を退陣させたのである。あの会社での最後の会議は全社員から社長への糾弾大会となった。ナンバーツーは言った。「今まで言えなかったことを社長にぶつけてください」と。こうしてオレは新たに合併した会社の社員となった。つまりどういうことかというと、在職年数34年7ヵ月というのは、合併前の会社と合併後の今の会社の通年在職年数であり、実際は二つの会社に在職していたことになるのである。

そしてこの合併後の今の会社というのが、非常に真っ当な経営と真っ当な福利厚生を為す、ある意味優良企業とも言うべき会社だったのである。会社の規模としては中小となるが、業界全体と比べてみても高過ぎでも安過ぎでもない給与で、おそらくあらゆる部分で業界における平均的な企業なのではないかと思う(どちらかというと古い業界に属するので、あちらこちらに目配せした平均値で落ち着こうとするのだろう)。そしてどうなったかというと安心して生活できる程度に給料が貰えるようになったのだ。

今の職場に一切の不満がなかったとは言わないが、そんなものは仕事というものをしている限りどこにいても誰といても起きる様な問題だろうとも思っている。だからそういったことは今までも言わなかったし書くつもりもない。それよりも今の会社の手厚さには本当に感謝している。在職中は自分の出来る範囲で努力はしたが、実のところ得手不得手の激しい人間で、会社からしてみれば可もなく不可もない人材だったのだろうとは思っている。それでも、そういった人材であっても大事にしてくれた今の会社には感謝の念が絶えない。

オレが28までフリーターをやっていたのは18の頃に進学に失敗しその後精神的にアレコレありポンコツ状態になったからで(そしてその程度でポンコツになるような脆弱な奴でもあったからで)、結局10年間フリーターを続けることになった。そしてフリーターをしていた間もその後就職してからも自分は社会不適応者なんだとずっと思っていた。そうしてウジウジしながら自己憐憫に浸ってハミダシ者を気取っていた。けれども仕事をして飯食って行かなきゃ死んでしまうし、手を抜かずきちんと仕事を続けるというその一点だけは頑なに守り、ただただ愚直にそれを続けていただけなのだ。そしてそれがこの定年を迎えるまで34年7ヵ月続いたということなのである。そうして思ったのだ、なんだオレ、やり切ったじゃないか、全然社会不適応者じゃなかったじゃないか、オレがなりたいと思っていた、真っ当な生活をする真っ当な人間になっていたじゃないかと。

というわけで62歳で定年となったオレの話であった。一応一般的に老齢年金が支給される65歳までは今の職場で働くつもりである。なお年金支給は繰り上げも繰り下げもせず65歳で貰うことにしている。いろいろ調べたがこれが一番いいように思えた。65歳からは会社を辞め隠居したい気持ちもあるのだが、体や頭を使わないとあっという間に両方使い物にならなくなる気もするんだよな。

65で隠居しても贅沢さえしなければ年金と今の預貯金でそこそこに安心して暮らせると目算しているが、かと言ってボケッとして日々過ごすことは避けたい。ここはやはり蕎麦を打ったりガーデニングに精を出したりハーレーで爆走したりするべきなのだろうか。予定としては積みに積みまくった積みゲーを日々消化するのが夢なのだが(小市民)。あ、このブログ?え?まだ続けるの?……うううう、続けてそうな気がする……(舞台は暗転。絶叫と哄笑が闇に響く。不穏な音楽が流れる中、第二部の準備が始まる)。