■初期ジェネシスを聴いていた
最近しばらく初期ジェネシスを聴いていた。ジェネシスは60年代後期から活躍していたイングランド出身のプログレッシヴ・ロック・バンドで、初期ジェネシスとはピーター・ガブリエルが在籍していた1975年までの活動を指している。ちなみにピーター・ガブリエル脱退後はフィル・コリンズがヴォーカルをとりポップな曲調で人気を博していた。
ロックを聴き始めた頃、オレはもっぱらデヴィッド・ボウイとロキシー・ミュージック(あと当然イーノ)、それと併せてプログレッシヴ・ロックをよく聴いていた。プログレ・バンドの中ではピンク・フロイドとキング・クリムゾンとイエスがお気に入りで、EL&Pはアルバムによっては面白いかな、てな感じだった。逆に言えばそれら有名どころしか聴いてなかったけどね。お金の無い中高生だからそんなに手広くレコードを漁れなかったんだよ。
実はジェネシスもその当事聴いていて、初めて出会ったのはジェネシス中期のアルバム『そして3人が残った』だった。メロディの美しい良いアルバムだったよ。気に入ったのでその後過去のアルバムを何枚か漁ったが、他のプログレ・バンドみたいにハマることはなかったな。『フォックス・トロット』は素晴らしいアルバムだったけどね。むしろ、その後のピーター・ガブリエルのソロのほうに注目するようになり、さらにポストパンク/ニューウェーブの到来でそっちの音楽のほうが全然面白くなってしまい、プログレ自体聴かなくなってしまった。プログレの重厚長大な音が時代遅れのものに感じてきてしまったんだ。
その後ポストパンク/ニューウェーブの青臭さがキツくなってきたオレはプリンスを始めとするブラック・ミュージックやハウス/テクノなどのエレクトリック・ダンス・ミュージックへと流れていった。レゲエも合間合間に聴いていた。そんなこんなでこの年までなにがしかの音楽を聴いていたオレなのだが、ここ最近自分の音楽趣味にいろいろ飽きてきて、突然リー・ペリーのレア盤漁りだしたりプリンスの全アルバムをコンプリートしてみたりPファンクをほんの少し齧ったりドアーズに浸ってみたりと、ちょっと迷走気味だった。そんな迷走気味のオレがまたぞろ新規開拓というか温故知新で聴き始めたのが初期ジェネシスだった、というわけだ。いや長い前置きだね。この後は短いんだけどね。
なんで今初期ジェネシスなのか、というのは自分でも分かんないのだが、もう一度プログレを復習しようかな、と思い、昔好きだったあれこれのバンドを聴き比べてみたら、その中で初期ジェネシスだけが「今でも充分聴くに堪える」バンドだった、とかそういうことだったのかもしれない。例えば今この歳で聴こうとするとピンク・フロイドは欝っぽくて気分が悪くなるし、キング・クリムゾンはインテリ向けのスカしたハードロックとしか思えないし、イエスは大仰で鬱陶しいし、EL&Pはマッチョで大味だ。総じてどのバンドも「聴いていて疲れる」。しかし初期ジェネシスの音は、まるで奇跡のように、これら大御所バンドのネガティブ要素と同質のものを一切持たなかったのである。
なにしろ初期ジェネシスの音で優れているのは、メロディが美しく聴いていて楽しいということ、音が軽やかなので聞き流せる(BGMに出来る)センスがあること、しかし注意して聴くと非常に技巧的で細やかな音作りをしていることに気付かされ驚かされること、細やかな音作りをしているからこそ何度聴いても飽きないこと、ピーター・ガブリエルのヴォーカルのトーンが高すぎず低すぎず、個性的であるにもかかわらず気に障らないこと、などなどが挙げられる。
全体的に、無理が無く、稚気があり、感受性豊かで、インテリジェンスを感じさせる音なのだ。とはいえ、これらは「初期ジェネシスが他のプログレ・バンドより優れている」ということではなく、ただ単に「今のオレの音楽の聴き方にマッチした音である」ということを言いたかっただけだ、ということに留意されたい。
そんな訳でここん所しばらく初期ジェネシスをよく聴いている。朝起きて身支度している時や、会社から家に帰って一服している時などに、何枚かのアルバムからその日の気分でセレクトして、イージーリスニング感覚で流しているのだ。電車やバスで移動のときにウォークマンで聴いたりはしないのだが、これは聴き入ってしまうから本が読めなくなってしまう、という理由からである。つまり聴き入るほどに素晴らしいのだ。
■初期ジェネシス・アルバムを紹介してみる
と言うわけで初期ジェネシスのアルバムの印象をざっくり書いておこう。
◎創世記 From Genesis to Revelation (1969年)
ジェネシスのデビュー・アルバムはプログレではなくいわゆるソフト・ロック的な音で、その後の片鱗は殆ど無いのだが、にもかかわらずピーガブのヴォーカルが聞こえると仄かにジェネシスの匂いが漂ってくる。マニア向けだが楽曲自体はきちんと作られており、退屈しない。やはりこの頃から才覚はあったのだな、と感じさせる。
◎侵入 Trespass (1970年)
この2ndからジェネシスらしい音作りを聴けるようになり、ある意味ジェネシスの本当の出発点と言うことができる。楽曲はまだ粗削りの部分はあるが、曲同士のユニーク化がそれほど無い分トータルとしてのイメージが強いアルバムだ。もうこの頃から8分超えの長い曲がガンガン入っている。やはりジェネシスは長い曲がいい。
◎怪奇骨董音楽箱 Nursery Cryme (1971年)
バリバリにプログレッシヴなこの3rdアルバムでジェネシス的な音とイメージが確立したといっていいのではないか。 ジャケットからも伺える英国怪奇趣味、ピーガブのシアトリカルなヴォーカル、トニー・バンクスの甘美なメロトロンの調べ、全体から漂う田園的かつ鬱蒼とした雰囲気、ここから『Selling England By The Pound』までの3作は初期ジェネシスのガチアルバムだろう。
◎フォックストロット Foxtrot (1972年)
やはりこのアルバムの目玉となるのは23分にのぼる大曲でありジェネシス史上最高の名曲『Supper's Ready』だろう。美しくメロディアスでシリアスさとコミカルさが同居し激しさと静けさとが混然一体となりヴォーカルも編曲も変幻自在で複雑な構成ににも拘らず全てが奇跡のようなバランスで一つの曲世界の中で息づいているという、「これを聴かずにジェネシスが聴けるか」という素晴らしい作品なのだ。オレなんか一時この曲をずっと口づさんでいたもんなあ。これ以外の曲も名品が多く、アルバムとしてもジェネシス最高傑作といえるかもしれない。
◎月影の騎士 Selling England By The Pound (1973年)
セリング・イングランド・バイ・ザ・パウンド(月影の騎士)(紙ジャケット仕様)
- アーティスト:ジェネシス
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
- 発売日: 2014/11/26
- メディア: CD
『フォックストロット』でひとつの頂点に達したジェネシス・サウンドをよりきめ細やかに深化させ、高純度の曲ばかりをアルバム一枚の中にバランスよく配していると言った部分で、このアルバムもまたジェネシスの最高傑作ということができるだろう。 繊細さと言った部分ではこの『月影の騎士』のほうが優れているかもしれない。
◎ライヴ Genesis Live (1973年)
ジェネシスの8分越えの長い曲ばかり6曲が収められたライブ・アルバムだ。ジェネシスはなにしろ長い曲が良いのでこれはある意味初期ジェネシスのベストアルバムということもできるが、惜しいのは『Supper's Ready』が入っていない、ということだ。それにしてもジャケットの赤い被りモノのことが10代の頃から気になって気になって仕方なかった。ピーガブのコスプレなんだけども。
◎眩惑のブロードウェイ The Lamb Lies Down On Broadway (1974年)
ザ・ラム・ライズ・ダウン・オン・ブロードウェイ(眩惑のブロードウェイ)(紙ジャケット仕様)
- アーティスト:ジェネシス
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
- 発売日: 2014/11/26
- メディア: CD
ラエルという名の少年の精神的遍歴をテーマにした2枚組コンセプト・アルバム。いわばジェネシス版『四重人格』『ザ・ウォール』といった所か。しかしコンセプトに奉仕するための楽曲が並ぶことによって全体の自由な楽曲クオリティを失くしてしまい、曲それぞれは記憶に残らないという陥穽に至っている。どうもピーガブが暴走し過ぎた結果なのらしく、このアルバムの後ピーガブはバンドを去り、初期ジェネシスは終了となった。
■おまけ:ピーガブ脱退後の中期ジェネシスもちょっと聴いてみた
◎トリック・オブ・ザ・テイル A Trick Of The Tail (1976年)
ピーガブ脱退後、フィル・コリンズをヴォーカルに据えての第1弾作品なのだが、ジェネシス・ファンにはそこそこ評価の高いアルバムなのにもかかわらず、これがオレにはびっくりするぐらいつまらなくて、こんなに違うものなのか、と思えてしまった。これはフィル・コリンズのヴォーカルに陰影を感じない事、ピーガブの専制から脱したメンバーの演奏が伸び伸びし過ぎて緊張感を感じない事、があるだろうか。
◎静寂の嵐 Wind & Wuthering (1976年)
まあ、やっぱりこれもオレにはつまらないんだけれども、 10代の頃はこのアルバムジャケットがとても美しく思えて気になっていて、何度も購入しようと思ってたんだが結局買わなかったという思い出があるな。まあ、試聴してピンと来なかったんだろうなあ。
◎眩惑のスーパー・ライヴ Seconds Out (1977年)
これは10代の頃級友から借りて聴いていた。2枚組でジェネシスの初期~中期の代表曲を網羅しており大変お得なんだけれども、聴いていた当時はそれほど好きって程じゃなかったなあ。ちょっと高音が五月蠅く感じていたような気がする。
◎そして3人が残った ...And Then There Were Three... (1978年)
最初のほうでも書いたけどこれがオレの初ジェネシスだった。当時はなんて綺麗なメロディなんだろうと感激していた好きなアルバムだったんだけれど、こうして今初期ジェネシスの音と比べてみると相当物足りなく聞こえてしまう。ヒプノシスのジャケットは好きだった。