ホラー映画『X エックス』シリーズ3部作

ホラー映画『X エックス』シリーズ3部作は、監督:タイ・ウェスト、主演:ミア・ゴスにより製作されたスラッシャー映画シリーズだ。1作目『X エックス』ではテキサスの田舎町で起こった大量殺人を描き、その前日譚となる2作目『Pearl パール』は『X エックス』における殺人ババア・パールの若き日が登場する。3作目『MaXXXine マキシーン』は『X エックス』での殺戮を生き延びた主人公マキシーンが再び事件に巻き込まれてゆく。
このシリーズで注目すべきは主演を演じるミア・ゴスの圧倒的な存在感とパワフルな演技だろう。1作目において主人公マキシーンと殺人ババア・パールの両方を演じている部分は驚かされるし、2作目では過去のパールを、3作目でその後のマキシーンを演じている点もユニークだ。今回はそんな『X(エックス)』シリーズ3部作を紹介する。
X エックス(監督:タイ・ウェスト 2022年アメリカ映画)

【STORY】1979年テキサス。ポルノ女優のマキシーンとクルーは映画撮影のためにひなびた農場を訪れるが、そこに暮らすのが史上最高齢の殺人鬼ジジババであることを知らなかった。
相当な怪作である。若者たちがテキサスの田舎町で殺人鬼に襲われるというのはよくある展開だが、その殺人鬼がヨボヨボのジジババという部分に大いに驚かされる。しかもそのジジババの熱いファックシーンが描かれるといった点も想定外だ。主人公マキシーンと殺人ババア・パールをミア・ゴスが一人二役で演じる点も面白いし、ポルノ業界を描いているといった設定も作品に淫靡な空気をもたらしている。また、ドラマ『ウェンズデー』で人気急上昇中のジェナ・オルテガが出演しているのも目が離せない。とはいえこのような怪作がその後3部作となり、あまつさえ傑作シリーズになるとは予想できなかった。
Pearl パール(監督:タイ・ウェスト 2022年アメリカ映画)

【STORY】1918年テキサス。小さな農場の一人娘であるパールはスターになることを夢見ていたが、厳格な母は決してそれを許さず、パールの鬱屈は遂に大量殺人の形で爆発する。
1作目『X エックス』の殺人ババア、パールの若き日を描き、パールがどのようにして殺人鬼と化していったかを描いた作品だ。テキサスの限界農場、脳性麻痺の父の介護と厳格過ぎる母の間で、鬱屈した日々を送るパールは遂に爆発する。この物語で描かれるのは、夢のない退屈な田舎町と貧困生活、そして毒親の過干渉にひたすら苛まれる一人の少女の苦痛と絶望であり、それが殺戮という形でしか結末をつけられなかったことの悲劇なのだ。ホラー作品ではあるが画面に焼き付けられるテキサスの陽光はあまりに明るく眩しく、そのちぐはぐさがなお一層物語の切なさを浮き彫りにする。これは傑作だろう。
MaXXXine マキシーン(監督:タイ・ウェスト 2024年アメリカ映画)

【STORY】1985年ハリウッド。大量殺戮を生き延びたマキシーンはスターの座を目指すが、またしても連続殺人鬼の影が彼女を追い回す。
1作目『X エックス』の殺戮を生き延びた主人公マキシーンが、ポルノ女優を脱却しホラー映画のスター女優を目指そうとする。見どころとなるのは80年代ハリウッドの猥雑極まりない光景とその風俗、レトロなファッションや音楽だ。最底辺から成り上りたいという確固たる意思を持つマキシーンはしたたかで大胆不敵、邪魔する者を容赦しない強烈な気概に満ちている。彼女は海千山千の映画業界と襲い掛かる殺人鬼の両方を相手に、生き残りをかけて戦うのだ。主演のミア・ゴスはこんなキャラクターをタフでクールに演じ切り、鮮烈な印象を残す。構成はサスペンススリラーだが所々に派手な血塗れシーンを配することでホラーとしての面目を保ち、誇張された演出はホラージャンルに対する諧謔でもあるのだろう。『TENET テネット』のエリザベス・デビッキが出演している部分も見逃せない。


