ロックよもやま話:オレとピンク・フロイド

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結構前だったが、ピンク・フロイドをよく聴いていた。あの頃、ちょっと体調が思わしくなかったか何かで、少々気が滅入っていたのである。気が滅入ったときに聴きたい音楽……その時オレは「ピンク・フロイドだろ……」と思ったのである。

ロックを聴き初めの10代の頃は、ボウイやロキシーとは別に、プログレッシヴ・ロックをよく聴いていた。それはイエスピンク・フロイドキング・クリムゾンである。オレにとってプログレ御三家というとこの3バンドである。EL&Pはちょっと取っつき難かった。ジェネシスは嫌いじゃなかったが、あまりプログレっぽく感じなかった。で、オレ的プログレ御三家の中で、イエスは気分がいい時によく聴いていた。キング・クリムゾンは気分がアグレッシヴな時によく聴いていた。ピンク・フロイドは気分がブルーな時によく聴いていた。全体的に常に気分的な10代ではあった。

これらプログレ・バンドは、セックス・ピストルズの登場でパンク/ニューウェーヴ系のロックをよく聴くようになってからあまり聴かなくなっていた。イエスは冗長でお花畑に思えたし、キング・クリムゾンは要するにハードロックだろと思えたし、ピンク・フロイドはなんだか暗いのが嫌だったし、EL&Pはどうにもマッチョに思えた。後々、つい最近だが、ジェネシスだけは再発見して、ピータ・ガブリエル在籍時の全アルバムを集めたりした。とはいえ、当時鬱っぽくなったオレが欲したのはピンク・フロイドのアルバムだった。多分30年ぶりぐらいに聴いたのだと思う。ただしこの時購入したのは、それまで聴いたことのなかった2019年発売のライヴ・アルバムだった。タイトルは『The Later Years (1987-2019) Highlights』。

いやー、これが良かった。オレのブルーな気持ちにずっぱまり(=「メチャクチャはまる」の意)のブルーなアルバムだった。これはもっとブルーになるしかない……そう思ったオレは、ピンク・フロイドと分裂したロジャー・ウォーターズのライヴ・アルバム『US+THEM』をすぐさま購入した。

Us + Them -Digi-

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いやこれがまたブルー極まりない素晴らしい鬱アルバムだった。ロジャー・ウォーターズピンク・フロイドの持っているガチにブルーな部分をそのまま継承していた。ホントもう筋金入りに性格が暗いのがひしひしと伝わる鬱々とした鬱アルバムだった。

こうして見ると分裂後のメイソン+ギルモアのピンク・フロイドは商売でやってるロートル・バンドの匂いがするし、それはそれで否定はしないけれども、少なくともクリエティヴィティには欠けているように思えたのだ。例えば分裂後フロイドのライヴBlu-ray『光』も観たのだけれども、スタジアム・ロック的な派手なステージで、観ていてまるで遜色はないにもかかわらず、『アニマルズ』の豚の気球を『アニマルズ』の曲と全然関係ないところで飛ばしたりとか、何かトンチンカンだった。

その後も彼らの過去アルバムを集めてみようとしたが、まず分裂後フロイドも含めた『ザ・ウォール』(79)以降の音はあまり興味が持てなかった。『ザ・ウォール』自体、いい曲もあるんだが2枚組のコンセプト・アルバムって冗漫過ぎてさあ。ちなみにこの作品、映画化にもなったんだが、ロードショー公開の時有楽町のガラガラの劇場で観た覚えがあるよ。

そして『原子心母』(70)以前のサイケ/アート・ロックの時代も興味が湧かないんだよなあ。その『原子心母』も今聴いてもそれほど悪くはないんだが、「ロックとシンフォニーの結合!」というコンセプト自体にやっぱり時代を感じるよな。

一応サイケ/アート・ロック時代の『ウマグマ』(69)を聴いてみたけど、やっぱりつまらなかった……。しかし大昔買おうかどうしようか散々悩んだアルバムだったので、その時の遺恨は晴らしたつもりである。

『おせっかい』は昔とてもよく聴いたアルバムの一つ。やはりここからが(シド・バレット脱退後の)ピンク・フロイドの始まりだったんじゃないだろうか。B面まるまる1面使った23分30秒の曲「エコーズ」がなにしろ圧巻。今聴くと飽きるけど。

『おせっかい』の後にリリースされた『雲の影』(72)、これは今回初めて聴いたんだけど、もともとサントラ・アルバムということもあってか全体的にユルく、さらにサイケ/アート・ロック期の音を引き摺ってて退屈だったなあ。

そしていよいよ『狂気』(73)だ。これ、今聴いても滅茶苦茶オカシイ完成度をしている、なにかこのアルバムだけ突出していて、この時メンバー全員にカミサマとか16次元の使者あたりが降りてきて、それでこんな凄まじい音を作り出してしまったんじゃないのかってぐらい異色なんだよな。「世界で最も売れたアルバム」っていうチャートがあるんだけれども、1位のマイケル・ジャクソン『スリラー』や2位のAC/ DCやら3位のホイットニー・ヒューストンはなんとなく分かる、でもイーグルスの2枚のアルバムに挟まって『狂気』が第6位とか、いくら優れたアルバムだとは言えここだけなんだか異様なんだよ。思うに、この『狂気』っていわゆるドラッグ・アルバムとして売れまくった側面があるんじゃないのかな。これ、ドラッグやりながら聴いたら最高にトべるアルバムだと思うもの。ただこのアルバム、大昔買って聴いたときはあまりに完璧すぎて破綻が無さすぎて、逆にピンとこなかったという部分もあったな。ただし今ピンク・フロイドを聴くならまず絶対にこれだろう。

Dark Side of the Moon

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それだけ売れたアルバムの後という事もあってかもう一回内省的なアルバムに戻ったのが『炎~あなたがここにいてほしい』(75)。実はこれとその後の『アニマルズ』が一番オレが聴いたピンク・フロイドのアルバムかもしれない。なんかこのブルーな雰囲気が当時鬱っぽかったオレの心情にフィットしたんだよな。そしてピンク・フロイドで一番好きなアルバムと言えば実はこの『炎』なんじゃないかなという気がする。タイトル曲「あなたがここにいてほしい」とかベタベタにメロウで、このメロウさがピンク・フロイドの原点なのだと思うしその完成形がこの曲のように思う。ピンク・フロイドの難点である大仰さが希薄なのがなにしろいい。ヒプノシスのジャケット・デザインもこの作品のが一番好きだ。

そして『アニマルズ』(77)。実は一番最初にオレの買ったピンク・フロイドのアルバムがこれだった。77年の発売時に購入したので当時のオレは15歳だった。「社会批判アルバム」と言われるけれども演奏のシリアスさはフロイドのどのアルバムと比べても群を抜いているんじゃないだろうか。ただこの頃からロジャー・ウォーターズが幅を利かせ始めたのも確かで、ここからあの『ザ・ウォール』へと繋がることになるんだが、一種のフロイドの変節点ともなった(そしてその後の分裂の胎芽となった)アルバムともいえるんじゃないかな。

まあこんな具合にあれこれ聴いたのだけれども、今はあまりブルーでもないのでピンク・フロイドは全然聴いていません。