■グリンゴ 最強の悪運男 (監督:ナッシュ・エドガートン 2018年アメリカ・メキシコ・オーストラリア映画
ひたすら会社に尽くしまくってきたある男が、友人である筈の経営者に騙され、復讐のため自分の偽装誘拐を計画するが!?というクライム・コメディ『グリンゴ 最強の悪運男』でございます。ちなみに「グリンゴ」というのは”よそもの”を指すスペイン語。そういや手塚治虫の作品にも同じタイトルのコミックがありましたな。
【物語】製薬会社に勤める主人公ハロルド(デヴィッド・オイェロウォ)はある日友人でもある会社経営者リチャード(ジョエル・エドガートン)、さらに共同経営者エレーン(シャーリーズ・セロン)と共にスペインに出張に出掛けます。しかしそこでハロルドが知ったのはリチャードが自分をクビにしようとしている事、さらに自分の妻を寝取っていたという事実!絶望のあまりヤケのヤンパチになったハロルドは、自分の偽装誘拐を企てリチャードとエレーンに一泡吹かそうと画策します!しかーし!ゲス男リチャードとクソ女エレーンは「身代金高いから交渉止めよっか?」などと打ち合わせする始末、さらにホントの誘拐犯がハロルドを攫おうと狙い始めます!メキシコの空の下、悪運男ハロルドの明日はどっちだ!?
作品にはこの他、『マンマ・ミーア!』のアマンダ・サイフリッドや『第9地区』のシャールト・コプリーが出演し、なかなかイイ味を出しております。監督のナッシュ・エドガートンはよく知らない方なんですが、これまで俳優・スタントマン、製作者として活躍されていたのだそう。
なにもかも嘘で塗り固めたゲス上司リチャード、その愛人で口八丁手八丁の女ゲス上司エレーン、この二人のゲスぶりがまず物語に非常に香しい悪臭を漂わせてくれております。下品・下劣・アンモラル、人間の心なんかあってたまるか!という人非人の限りを尽くす二人をジョエル・エドガートンとシャーリーズ・セロンが愉快かつグロテスクに演じてくれております。そんなゲスい連中に運命を弄ばれ、何もかもを失った男ハロルドを演じるのがデヴィッド・オイェロウォですが、表情に乏しく今一つ悲惨さを演技しきれておらず、そもそもコメディ向けの俳優さんじゃないような気がしたな。
物語はこのハロルドが窮鼠猫を噛む大逆転劇を!?と思わせつつ、思い付きの偽装誘拐作戦はスカスカの穴だらけ、さらにゲス上司二人は「身代金なんか出したくないよー」と鼻糞ほじってるし(比喩表現)、その裏ではメキシコ麻薬カルテルが怪しく蠢きハロルドを狙い、そこにリチャードの命を受けた元傭兵のミッチ(シャールト・コプリー)まで現れて物語はどんどんと明後日の方向へと乱調してゆきます。そこにたまたまメキシコにバカンスに来ていたサニー(アマンダ・サイフリッド)が登場し、どう絡むのか?と思わせつつ進むシナリオはその一筋縄の行かなさに面白さを醸し出そうと苦労しています。
とはいえ、度重なるどんでん返しを狙った物語は今一つの所で驚きや可笑しさを表現しきれません。なんだろなー、もう少々アクションが入ってもよかったんではないか、物語に飛び道具みたいなハッタリを織り交ぜてもよかったんではないか、ちょっと狂ってるぐらいのスラップスティックなコメディ要素を盛り込むべきだったんじゃないか、などとあれこれ思っちゃいましたね。ゲス上司のキャラは上々でしたが元傭兵のミッチやサニーはもっと活かし方があったような気がする。あとなにしろハロルドのキャラが魅力に乏しすぎたんじゃないかなあ。
この作品を観て思い出したのはトッド・フィリップス監督による『ハングオーバー!』シリーズでしたね。実はサディスティック過ぎてそんなに好きなシリーズではないんですが、それでも次から次へ思いもよらない展開を持ち込み、ジェットコースターのようにテンポのいい展開を見せてくれていました。この『グリンゴ』は『ハングオーバー!』と同じように馴染の無い土地でとんでもない事件に巻き込まれる、というコメディ作品ですが、『ハングオーバー!』のように「そこまでやるのか」という思い切りの良い演出をしきれなかった部分で、若干の物足りなさを感じてしまいました。