『スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選』

スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選) (創元SF文庫)

『紙の動物園』のケン・リュウ、『All You Need Is Kill』の桜坂洋、『火星の人』のアンディ・ウィアーら、現代SFを牽引する豪華執筆陣が集結。ヒューゴー賞ネビュラ賞星雲賞受賞作家たちが、ビデオゲームと小説の新たな可能性に挑む。本邦初訳10編を含む全12編を厳選した、傑作オリジナルSFアンソロジー。

ビデオゲームは好きだ。好きなんだがやれてない。仕事が終わって家に帰り着くと大概疲れていてゲームをする気力が無くなっているからだ。映画みたいな受動的なメディアなら寝転がって気楽に観ていられるがゲームは能動的にアクションしなければならないので体力がいるのだ。あとまあ家帰ると酒飲んじゃうってのもあるなあ。

そんなゲームやれてないオレではあるが、「ビデオゲームをモチーフにした短編SFアンソロジー」がリリースされると聴いて実に心が躍った。ゲームにSF、オレの好きなものがカップリングされた夢のような企画ではないか。カレーライスにトンカツが乗っかって二倍お得なカツカレーの如き満足感ではないか(どういう比喩だ)。

今回紹介する『ゲームSF傑作選/スタートボタンを押してください』は2015年に出版された短編SFアンソロジー『Press Start To play』を元に、そこに収められた26編から12編の作品を翻訳収録している。執筆者はケン・リュウ、アンディ・ウィアーといった新時代SFの旗手から日本人作家・桜坂 洋、あとはエトセトラエトセトラといった感じだ。要するに名前に馴染の無い作家という事だが、本書のバイオを読むと「あの作品に関わったあの人か!」という作家も意外と多かった。

ビデオゲームがモチーフのSF」ということだが、一口にゲームといってもジャンルは様々、テキストアドベンチャーからFPSサバイバルホラー、シミュレーション、MMORPGなどなど、いろいろなビデオゲームが題材にされている。また、ゲームのもつある特徴を抜き出しそれを膨らませて物語にした作品もある。それは「1アップ」「NPC」「神モード」「キャラクター選択」といった作品タイトルからも伺えるだろう。特に桜坂 洋「リスポーン」にはゲーム自体は登場しないけれども、"リスポーン(何度も生まれ変わる)"といったゲーム特性のみを物語に抽出し優れた作品をものにしている。

個々の作品のクオリティを言うと、正直なところ特上から並まで玉石混交ではあるのだが、オレ的には「ビデオゲームがモチーフ」であるというだけで面白さや興味が一段底上げされる形となった。要するに、結果的にはどの作品も楽しめた。ゲームというテーマへのアプローチが多種多様なのもよかった。なんだろう、「ビデオゲーム」ってだけで、なんだかワクワクしてくるんですよ。最初に書いた「二倍お得な」じゃないけれど、SF小説を読みながら尚且つゲームのことも頭に思い浮かべられる、なぜだかこれがとても楽しいのですよ。

というわけでゲームという着眼点の面白かったアンソロジー『スタートボタンを押してください』だが、原著から抜粋ということを考えるなら、このアンソロジーが好評な場合は残りの作品もまた別の単行本で訳出される機会かあるかもしれないってことだな。まあクオリティのせいで選別されたってこともあるかもしれないが、そういうのでなければ残りも是非訳して欲しいな。 

 《収録作》

アーネスト・クライン 序文
桜坂 洋「リスポーン」
デヴィッド・バー・カートリー「救助よろ」
ホリー・ブラック「1アップ」
チャールズ・ユウ「NPC
チャーリー・ジェーン・アンダース「猫の王権」
ダニエル・H・ウィルソン「神モード」
ミッキー・ニールソン「リコイル!」
ショーナン・マグワイアサバイバルホラー
ヒュー・ハウイー「キャラクター選択」
アンディ・ウィアー「ツウォリア」
コリイ・ドクトロウ「アンダのゲーム」
ケン・リュウ「時計仕掛けの兵隊」
米光一成 解説 

スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選) (創元SF文庫)

スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選) (創元SF文庫)

 
スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選 (創元SF文庫)

スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選 (創元SF文庫)