アンソロジー『中国・SF・革命』はなんだかなあって感じだったなあ

■中国・SF・革命 / ケン・リュウ

中国・SF・革命

売店続出の「文藝」春季号特集を大幅増補の上単行本化。新たにケン・リュウ、郝景芳 (ハオ・ジンファン)の初邦訳作品と柞刈湯葉の書き下ろし「改暦」を収録。 劉慈欣『三体』の世界的大ヒットに代表される 中国SFの現在と、中国をめぐる想像力の先端に挑む、 日中米の作家たちによるオリジナルアンソロジー

もう何度も書いているのだが、最近中国SFの元気がいい。劉慈欣による『三体』シリーズも人気を集め、ケン・リュウや立原透耶による中華SFアンソロジーも実に新鮮な作品が溢れている。そんな中、『中国・SF・革命』というタイトルのアンソロジー河出書房新社から刊行されたので、早速手にしてみたのだが、これが、ええと、う~ん……。

『中国・SF・革命』は雑誌「文藝」2020年春季号で特集された「中国・SF・革命」の作品・エッセイに、ケン・リュウ、 郝景芳の初訳、柞刈湯葉の描きおろしを加えて単行本化したオリジナルアンソロジーである。で、読むまで気付かなかったんだが、このアンソロジー、中華SFだけを網羅した中国SFアンソロジーって訳では全然なかったんだよな。日本人作家による中国を題材にした作品や、中国作家でもSF作品とは呼べないもの、さらにエッセイでも中国には関わっているがSFとは関係ないものが収録されているのだ。要するに、「中国・SF・革命」ではあっても「中国の革命的なSF作品」を扱っているわけではなく、「中国だったりSFだったりなんとなく革命っぽくもある」というのが本書なのである。

ラインナップに日本人作家がいる段階で気付けばよかったんだが、単行本タイトルだけ見たら「中国SFのアンソロジー」って思っちゃうじゃないか。まあ雑誌出版段階で好評だった企画に新作を幾つか足して単行本化しました、というものなんだろうけど、「文藝」なんていう雑誌を知らない単なる市井のSFファンとしては普通に中国SFアンソロジーだと思ってしまうし、確かに中国に関わりのある内容でまとめてあるとはしても、『中国・SF・革命』ってタイトルの付け方は牽強付会過ぎはしないだろうか。日本人作家による作品も非SF作品/エッセイにしても、別にクオリティが低いとは言わないが、例えば英国文学短編集と銘打たれて「かつて英国の植民地だったから」という理由でインド文学入れられても面食らうだろう。そんなちぐはぐさを感じてしまったよ。

文句ばっかり言ってもしょうもないから幾つかの作品の感想を。ケン・リュウ「トラストレス」は短いながらも相当サイバーかつ現実と直結した快作。でもやっぱりもうちょっと長い作品を読みたい。 柞刈湯葉「改暦」は元王朝時代の中国を舞台にした非SF作だが伝奇な匂いがなかなか読ませる。郝景芳「阿房宮」は現代を舞台に不老不死化した始皇帝と出会ってしまった男の顛末を描く奇想SF。この単行本で最も読み応えがあり、最近訳出された中国SFの中でも結構な傑作ではないか。王谷晶「移民の味」は無理にSFしなくても成立しちゃう話だよなー。閻連科「村長が死んだ」はあえて言うならマジックリアリズム風の歴史作だが退屈。佐藤究「ツォンパントリ」は孫文を主人公に据えた力作だがテーマに無理が感じる。 上田岳弘「最初の恋」は要するにエモ文学。樋口恭介「盤古」 は幻想的な筆致で描かれたロマンチックな作品だが大風呂敷過ぎたかな。エッセイの感想は省略。 

【収録作】

■小説 ケン・リュウ「トラストレス」(古沢嘉通 訳) *初邦訳  柞刈湯葉「改暦」 *書き下ろし 郝景芳「阿房宮」(及川茜 訳) *初邦訳  王谷晶「移民の味」 閻連科「村長が死んだ」(谷川毅 訳) 佐藤究「ツォンパントリ」 上田岳弘「最初の恋」 樋口恭介「盤古」 

■エッセイ イーユン・リー「食う男」(篠森ゆりこ 訳) ジェニー・ザン「存在は無視するくせに、私たちのふりをする彼ら」(小澤身和子 訳) 藤井太洋 「ルポ『三体』が変えた中国」 立原透耶 「『三体』以前と以後」