オレとインド映画〜あるいは如何にしてオレはハリウッド作品を観るのを止めインド映画に傾倒したのか


いつからだろう、映画を観ていても、あまり面白くなくなってきたのだ。新作の話題を聞いても、わくわくしたりもしない。劇場には行くし、レンタルで借りても観るけれども、どうしても観たい、というものではなくて、「一応話題作だったからチェックしておこう」程度の、確認作業じみたものになってきたのだ。そして観始めても、最初の10分ぐらいで退屈している。つまらないなあ、と思い始めている。
思うに、一部のハリウッド映画の、なにもかも説明されている、こちらの想像力の余地の無い物語運びに飽きている、というのがあるかもしれない。それと同時に、欧米白人ならではの、個人主義に裏打ちされた人間関係のキツさ、キリスト教史観にがんじがらめになった世界観にうんざりしてきている、というのもあるかもしれない。そしてさらに、アメリカ固有の、ドメスティックな問題を扱ったテーマが、なんだかもうどうでもよくなってきた、というのもあるかもしれない。総じて、物凄く不遜なことを言うなら、「こいつら、どん詰まってんなあ」と思えてしょうがなくなってきていたのだ。
そんな時、侍功夫さんのブログで、インド映画の記事を見かけたのだ。「最近見たインド映画まとめ〜2014早春〜」というタイトルのその記事では、侍さんが最近視聴されたインド映画が書かれていた。ああ、インド映画か、インド映画は楽しいし、好きだ。侍さんの記事で取り上げている映画も、なんだか面白そうだ。タイトルはどれも輸入盤だが、ちょっと買って、観てみてもいいじゃないか。そう思って、数本の映画を購入し、「ちょっとだけ」のつもりで観てみたのだ。
すると、これが、とんでもなく面白いものだったのだ。
この時観たインド映画のどれもが、これまで知っていたインド映画のイメージを覆し、あるいは深化させたものだった。エスニック映画と呼ぶなんてとんでもない程現代的であると同時に、これまで日本公開されて観たインド映画が日本マーケット向けの当たり障りないものでしかなかったと思えるほど、濃厚な歴史性と祝祭空間と艶やかな色彩美に溢れていた。
今のインド映画はとんでもないレベルにまで達している。そこにはハリウッドの模倣でもなんでもない独自の世界がある。インド映画ならではの、インド映画でしか味わえない、甘美でエキゾチックな匂いと空気感に満ち満ちている。
こんなインド映画をもっと観たい。オレはもっとインド映画を体験したい。
しかし、何から観たらいいのか、どこから手を付ければいいのか、全然分からないのだ。年間1000本もの映画が撮られ、さらに歴史もあるインド映画の、観るべき作品はどれなのか。そこで参考にしたのが年間興行収入トップ10の映画だ。もちろん興行成績が良い映画=面白い映画ということにならないのは、ハリウッド映画で学習済みだが、最初から何も知らない段階から観るのだから、四の五の文句を言わず、とりあえず黙って全部観てみることにしたのだ。そしてそれは2013年の、一番最新のインド映画、ということにした。どうせ観るなら最新型のインド映画がいい。歴史に残る古い名作みたいなのはあとでいい(それに、ハリウッド映画だって、「名作」と呼ばれながらも古い映画は今観ると案外詰まらなかったりするのだ)。
参考にしたサイトはBOLLYMOVIEREVIEWZのボックス・オフィス。しかし最初、2013年度のトップ10を全部観てインド映画を観るのは一旦打ち止めにするつもりだったのに、どんどん面白く感じるようになってきて、結局はトップ10以外の話題作や名作と呼ばれている作品も探して観はじめ、さらに2012年、2011年と遡ってトップ10作品を漁ることになってしまったが。

まずこちらが2013年のボックスオフィス・トップ10。(タイトルにリンクのあるものは視聴済み:リンク先に感想あり)

Top 10 Bollywood Movies in 2013 by Box Office Collection
1.Dhoom 3 (Hindi) / 261.32 Crore
2.Chennai Express / 208.44 Crore
3.Yeh Jawani Hain Deewani / 185.83 Crore
4.Krrish 3 ( Hindi) / 181.11 Crore
5.Ram Leela / 112.67 Crore
6.Bhaag Milkha Bhaag / 108.87 Crore
7.Race 2 / 96.34 Crore
8.Grand Masti / 92.13 Crore
9.Aashiqui 2 / 78.42 Crore
10.Special Chhabis / 66.8 Crore

こちらは2012年のボックスオフィス・トップ10。(タイトルにリンクのあるものは視聴済み:リンク先に感想あり)

Top 10 Bollywood Movies in 2012 by Box Office Collection
1.Ek Tha Tiger (邦題:タイガー 伝説のスパイ) / 186Crore
2.Dabangg 2 / 155Crore
3.Rowdy Rathore / 133Crore
4.Agneepath / 120Crore
5.Housefull 2 / 114Crore
6.Barfi (邦題:バルフィ!人生に唄えば) / 106Crore
7.Jab Tak Hain Jaan (邦題:命ある限り) / 101.25Crore
8.Bol Bachchan / 100Crore
9.Talaash / 93Crore
10.Son of Sardaar / 88.5Crore

そして2011年のボックスオフィス・トップ10。(タイトルにリンクのあるものは視聴済み:リンク先に感想あり)

Top 10 Bollywood Movies in 2011 by Box Office Collection
1.Bodyguard / 140.95 Crore
2.Ready / 121.26 Crore
3.Ra One (邦題:ラ・ワン)/ 114.78 Crore
4.Don 2 (邦題:闇の帝王DON ベルリン強奪作戦) / 106.22 Crore
5.Singham / 97.87 Crore
6.Zindagi Mile Na Dobara / 89.85 Crore
7.The Dirty Picture / 79.76 Crore
8.Rockstar / 67.63 Crore
9.Mere Brother Ki Dulhan / 59 Crore
10.Delhi Belly / 57 Crore

さらにボックスオフィス・オールタイム・ベスト10。(タイトルにリンクのあるものは視聴済み:リンク先に感想あり)

Top 10 Bollywood Movies of AllTime by Gross Box Office Collection
1.Dhoom 3 (Hindi) / 502.67 Crore*
2.Chennai Express / 395 Crore
3.3 Idiots (邦題:きっと、うまくいく) / 392 Crore
4.Ek Tha Tiger (邦題:タイガー 伝説のスパイ) / 310 Crore
5.Yeh Jawani Hain Deewani / 302 Crore
6.Krrish 3 ( Hindi) / 300 Crore
7.Dabangg 2 / 251 Crore
8.Bodyguard / 230 Crore
9.Dabangg (邦題:ダバング 大胆不敵) / 215 Crore
10.Jab Tak Hain Jaan (邦題:命ある限り) / 211 Crore

こうしてあれこれ調べながら、3ヶ月で40作あまりのインド映画を観た。この間は、時間の許す限り、朝から晩までインド映画を観ていた。会社にDVDを持ち込んで、昼休みにパソコンで観るまでした。夜に観ていて途中寝落ちした映画は、早起きして会社に出かけるぎりぎりの時間まで観ていたりした。相方さんにも、そのうちの何本かを「これ絶対面白いから!」と無理矢理見せたりもした。やはりどうしたって敷居の高くなる英語字幕の映画を、それも3時間余りに渡ってつきあってくれた相方さんありがとう…。そうじゃない時間はインド映画の情報をチェックしていた。インド映画DVDショップの「お勧め」DVDは端から全部内容を調べた。休みの日になるとブログ用の感想文をまとめ書きしていた。そして、これまで足げく通っていた、ハリウッド映画のロードショー劇場にはほとんど行かなくなっていた。買ったばかりのプレステ4のゲームも全然触っていない。
だって、どうしたって、インド映画のほうが楽しいのだ。
「浴びるように観る」とはまさにこういうことなのだろうと思う。ただ、どうにもインド映画一辺倒の生活になってしまったので、この辺で一区切りつけて、これからはもう少しゆっくりインド映画を楽しみたいと思う。
実の所、インド映画がハリウッドその他の映画よりも格段に優れている、というふうに思っているわけではない。インド映画もまたハリウッド映画のような続編・リメイクが多く作られているようだし、何本か観ていると同じようなモチーフの作品が多々あったりもする。産業として成熟し多量の作品が量産されることによる弊害は、ハリウッドもボリウッドもたいして変わらない。そしてインド映画もやはり分かり難いドメスティックな内容を描きもする。これはインド映画にそれなりの愛が無ければ「よく分かんない話」で終わってしまう。
インド映画を観てハリウッドよりも優れていると思った点は、まず最初に音楽のレベルの高さと、画質の高さだ。音楽はエスニック調なものにとどまらず幅広いジャンルをカヴァーしており、しかも完成度が高い。DVD画質はBlu-rayがいらないと思うほどの鮮明で美しいのだ。ただし若干残像の多い作品もあることはある。これはデジタル撮影技術の浸透しているからという話なのだが、大量に製作されているからと言ってインド映画が決して粗製濫造ではないといういい見本だろう。
そしてオレがインド映画に最も惹かれた理由というなら、それは画面に現れる習俗の明らかな違いが新鮮で堪らない、これに尽きる。それが単にローカルでエスニックな物珍しさだけではなく、強烈な力強さと、それが度を越した混沌とがある。そしてそれは一見しただけでは理解できない複雑さに満ちている。
その容易に分かり難い"何か"に、分かり難いからこそ惹かれてしまう。
これはどういうことなのだろう?この背景には何があるのだろう?そう考えることで興味が尽きなくなってしまう。そして映画産業が成熟している分、映画作品としてきちんと充実している、ということも挙げられる。同じようにエスニックな国の映画にそれほど惹かれなかったのに、インド映画に突出して興味を惹かれたのは、これまで観てきたハリウッドその他の映画に、ひけもとらず同等であるばかりか、さらにインド映画ならではの素晴らしさが加味されているからと言わざるを得ない。
さらにもう一言いうならば、オレは今インド映画をとても面白く観ているけれども、そもそもオレは、やっぱり映画が好きなのだ。インドもなにも関係なく、面白い映画が観たいし、面白い映画が好きなだけなのだ。というか、SFとホラー、そして多分サスペンスに関しては、やっぱりハリウッド作品がよく出来ていると思うし、面白い。そしてインド映画は、そんな映画好きの心を呼び戻してくれたのだ。だから、インド映画はとっても凄いからみんな観ろ、なんて誰にも言わないけど、面白い映画はインドにもある、いろんな理由で紹介が遅れているだけで、紹介するに能わないジャンルであるなんてことは決して無い(世界でもこんなにインド映画が観られていないのは日本ぐらいなんだそうだ)。だから食わず嫌いしないで、一回観てみたらきっと楽しいよ、ぐらいのことは、ちょっと言いたいかな、なーんて思う。そして最後に、沢山のインド映画を観るきっかけを作ってくれた侍功夫さんに、最大限の感謝と敬意を表したい。
…というわけで。
さあ、明日はいよいよ『ダバング 大胆不敵』の日本公開だ!観に行くぞ〜ッ!!