シャー・ルク・カーン主演映画『ライース』に関するあれこれ

■ライース (監督:ラーフル・ドーラキヤー 2017年インド映画)

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■オレが『ライース』を観ることができるようになるまでの苦闘の歴史(?)

シャー・ルク・カーン主演の映画『ライース(Raees)』は禁酒法の布かれたインドのある州で、密造酒を売りさばき財を築き上げた男の栄光と没落を描くピカレスク・ロマンだ。今回はこの映画の感想駄文と一緒に、私的などうでもいいことを例によってグダグダ書き散らかしたい。

この『ライース』、インドで今年の1月に公開された作品だが、日本でもかのSpaceBoxさん主催の上映会がありインド本国と殆ど同じタイミングで観ることができることとなった。オレも「シャールク御大の新作映画が日本でも上映される!」と喜び勇んでチケット予約したのだが、実はちょうどこの時期に引っ越しを予定しており、相当に忙しかったのだ。結局都合がつかず行くことが出来なかったのである。そもそもこの時期は他の劇場公開映画さえまるで観られなかった。ああ、オレのシャールク、そしてチケット代(2200円もしやがるんだぜ?)……。

そんなこんなで月日が経ち、今度は輸入盤DVDがリリースされることを知る。引っ越しも終わり落ち着いたしやっと観られると思い購入し、早速観始めたのがこれが不良DVDで最初の40分ぐらいでフリーズしまくる。DVD再生機をあれこれとっかえひっかえしても駄目だ(というかPS3PS4とXboxOneとPCだけどね!)。

なんだよ天はどうしてもオレにシャールク映画を観せないつもりなのかとあきらめかけていた所、今度はNetflixで観られるというじゃないか。もともとNetflixはインド映画に力を入れていることは知っていたのだが、いよいよシャールク様が降臨なさるのか。これは嬉しい。しかしだ。オンデマンドは既にAmazonビデオとHuluに加入しているのである。ここにきてさらにNetflixかよ……。ただでさえ少ないオレの貯金が……。

などということを数か月グダグダ悩み続けていたところ、この間シャールク様主演で上映された『ジャブ・ハリー・メット・セジャル』である。これが実に素晴らしかった。

ううむこれはもう腹をくくってNetflixでシャールク様映画『ライース』を観るしかないではないか。というわけで少ない貯金の心配をしつつ(まだ言う)Netflixに加入し(まあ月950円のプランだけどね!)、ここでやっと『ライース』を観ることができた、というわけである(下らない長文失礼しました)。

■極道VS警官、火花を散らす男と男の物語『ライース

さてやっと映画の紹介となる。映画『ライース』は最初にも書いたようにインドの禁酒法がある州で密造酒販売をする男の物語である。禁酒法というとアメリカ禁酒法をどうしても連想してしまい、古い時代の物語のように感じるが、この映画は20世紀末のインド・グジャラート州を舞台にしている。近過去なのだ。

実はインドでは禁酒法を布いている州がこのグジャラート州をはじめ幾つかあり、さらに最近では「高速道路沿いの500メートル圏内の飲食店における酒の販売禁止」なんて政令まで施行されたらしい(えっとあの今ザックリググっただけなんでホントはもうちょっと違うかも。インドの事そんな詳しくないっす)。ただやっぱりこの映画みたいに闇酒が出回ったりしているみたいだけどね。

物語は密造酒を売りさばき一代を成した"どてらいヤツ"ライース(シャールク)を主人公とし、彼の子供時代からその行く末までを描くことになる。なにしろ基本が極道の物語なんで、結託と裏切り、抗争と殺戮、贈賄に政治関与と汚れ仕事のオンパレードだ。だが同時に仲間との厚い信頼、妻への愛、周辺住民への慈善行為など、大立者らしい懐の深さもまた描いている。この黒々とした魅力に溢れる不敵な極道者ライースを、シャールクが匂い立つような演技で演じ切っている。要するにカッコイイんですよ。

しかしこんなライースを阻む者がいた。それが警察官警察官ジャイディープ。蛇のような執念でライースを追いつめてゆくこの男をナワーズッディーン・シッディーキーが演じていて、物語に大いなる緊張感を持ち込んでゆく。そしてこのナワーズッディーンがとてもいい。あの表情の無い顔に冷たく光る眼が凄くいい。ナワーズッディーンが演じていなければこの映画は成り立っていなかったんじゃないかと思わせるほどだ。物語はこうして、ライースとジャイディープとが睨み合いながらお互いを出し抜くために様々な画策が成されつつ、クライマックスへと向かってゆくんだ。

■映画『ライース』を観てあれこれ思ったこと

非常にしっかりと作られた、映画ならではの魅力に溢れた作品だった。シャールクもナワーズッディーンもよかったし、ライースの女房役で出演したマーヒラー・カーンもどこか陰りのある素晴らしい女優で、「極道の妻」を堂々と演じていた。手堅く作られている分、"新しさ"といった点では見劣りするかもしれないが、良作であることは間違いはない。Netflixに加入してる方、インド映画の良作を観るいいチャンスなのでちょっとチャレンジしてみましょうよ!

ところでこの『ライース』を観ていて、オレはある映画の事を思い出した。それはカマラ・ハーサン主演、マニ・ラトラム監督により1987年に公開されたインド映画『Nayakan』だ。

この『Nayakan』も実は、密造酒を売って一代を成したある極道者の物語であり、そして『ライース』と同じように、貧しい人々に篤志することで絶大な支持を得ていた男の物語なんだ。『Nayakan』自体はハリウッド映画『ゴッドファーザー』の翻案という形を取っていて、『ゴッドファーザー』とよく似た部分を見つけながら観るのが面白かったが、同時にこの物語はボンベイに実際に存在したマフィアのドン、Varadarajan Mudaliarの生涯をモデルにしているという。物語は『ライース』同様、家族との愛、彼を追う冷徹な警察官との確執などを盛り込みながら展開してゆくんだ。

ただ別に『ライース』がこの『Nayakan』を意識していたということもないのだろう。Wikipedia『Raees』によると、『ライース』の物語がグジャラート州出身の犯罪者アブドゥル・ラティフの生涯を下敷きにしているのではないかということも書かれていて(映画製作サイドは否定)、そうするとやはり『Nayakan』の物語とはまた違ったものになる。とはいえ、密造酒を巡る極道物語という類似性が面白かったので参考までに紹介してみた。


Shah Rukh Khan In & As Raees | Trailer | Releasing 25 Jan