チビ男と車椅子女性の恋/映画『Zero』

■Zero (監督:アーナンド・L・ラーイ 2018年インド映画)

f:id:globalhead:20181223171632j:plain

■今年最後のインド映画大作はシャー・ルク・カーン主演作

身長137センチしかないチビの男が恋をしたのは脳性麻痺を患う車椅子の女性だった。2018年の掉尾を飾るボリウッドラブロマンス大作『Zero』が遂に公開されました。主演はキング・オブ・ボリウッドことシャー・ルク・カーン、ヒロインにアヌーシュカ・シャルマー、カトリーナ・カイフ。ちなみにこの3人は2012年公開の『命ある限り』でも共演を果たしております。監督は『タヌとマヌは結ばれる』(2011)(Netflixで公開中)とその続編『Tanu Weds Manu: Returns』(2015)、『ラーンジャナー』(2013)のアーナンド・L・ラーイ。作品はSpaceBox主催のインド映画上映会で英語字幕で鑑賞しました。

《物語》ウッタル・プラデーシュ州のメーラトに住む38歳の男、バウア・シン(シャールク・カーン)はお喋り好きのお調子者だったが、137センチの低身長が災いしてか結婚相手がおらず、今日も結婚相談所に駆け込む。バウアはそこで宇宙工学技術者のアーフィア(アヌーシュカ・シャルマー)という名の女性にぞっこんになる。矢も盾もたまらず彼女に会いに行くバウアだったが、なんと彼女は脳性麻痺により車椅子生活を余儀なくされている女性だった。逡巡や諍いなどがありながらも、バウアとアーフィアは目出度く結婚が決まる。しかし、バウアが以前より大ファンだった女優のバビータ(カトリーナ・カイフ)ととあることから知り合ったことにより、その結婚に暗雲が立ち込めることになる。

f:id:globalhead:20181224125111j:plain

この作品でまず最初に目を惹くのはあのシャールクが、特殊効果により背丈の小さな男を演じる、という所でしょう。シャールクは2016年の主演作『Fan』において、やはり特殊効果を使い「自分にそっくりのファンにストーカーされる映画スター」を一人二役で演じますが、「そっくりではあるが微妙に違う顔の不気味さ」を実に巧みに盛り上げることに成功していました。いわゆる二枚目俳優であるシャールクですが、『神が結び合わせた2人』(2008)のようなあえて地味でダサい役を演じたり、今作や『Fan』のようなエキセントリック極まりない役を演じてみたりと、スターの座に甘んじない冒険心を非常に感じることが出来ました。

■マジカルでファンタスティックな展開が魅せる前半

さて物語はどうでしょう。前半においてシャールク演じるバウアは、止め処も無いお喋りと胡散臭い調子の良さを延々と披露し、その一癖も二癖もあるキャラクターを観客に強烈に印象付けます。実はシャールク、癖のある役が巧いんですよね。とはいえ、その楽天的な一途さが彼をどことなく憎めない男にしています。それに対しアヌーシュカ演じるアーフィアは、最初困惑しつつもいつしか彼を愛するようになるのです。そして、この2人の愛がまさに成就するその時の演出が、もうマジカルとしかいいようのない最高に素晴らしいファンタジックな映像で盛り上がりまくってくれるのですよ!まさにインド映画の面目躍如ともいえる見所中の見所です!!

背丈があまりに低いこと、車椅子での生活を送っていること。これらは、一般的なロマンスを困難にする要素ではあるでしょう。物語はそんな困難さを背負った男女がお互いに愛を見出し結ばれる様を描きます。しかしこれは、障碍者にもロマンスは可能だなどと言っている作品ではありません。世に暮らす多くの人は、実は大なり小なりなにがしかの困難を抱えているものです。それは容姿であったり性格であったり、家族や経済的事情であったりと様々でしょう。映画における2人の障害は、これらをアナロジーとして表現したものであり、その本質にある「愛は困難を乗り超える」というメッセージは観るものの心に普遍的に響くことでしょう。

しかし、かねてからバウアがご執心だったボリウッド女優バビータとバウアが、あるきっかけから急接近することになり、物語は大波乱を迎えたまま後半へと続くのです。

f:id:globalhead:20181224084949j:plain

■波乱の展開を迎える後半 

この後半冒頭はバビータとバウアの物語となっていきます。ここからはあまり内容に触れないことにしますが、この後半ではこれまでのアーナンド・L・ラーイ監督作品と同様、「男と女の一筋縄ではいかない愛の確執」が描かれてゆくことになるんです。それは表裏一体となった愛と憎しみであり、愛するが故の怒りであり、愛に名を借りた支配であり、諦めた筈なのにくすぶり続けてしまう愛の記憶でもあるのです。オレはこういった展開を迎えるこれまでのアーナンド監督作品どれもに衝撃を受けたのですが、この作品でもそういった生々しい感情が次々と爆発してゆきます。「ラブロマンス作品」の一言で終わらない深みと複雑さがアーナンド監督作品には常に存在しているのです。

映画『Zero』は「男と女の一筋縄ではいかない愛の確執」を描きながらさらにクライマックスにおいて「悔恨と贖罪」というテーマへとなだれ込んで行きます。愛する者を傷つけてしまった罪をどう贖うのか、ということです。しかしこういった展開を迎えながら疾走してゆくクライマックスは、物語を盛り上げようとすればするほどリアリティから乖離してゆき、これはこれでひとつのファンタジィと見ることもできますが、個人的にはどこか置いてけぼりにされてしまったような気分を味わいました。逆に、これほどまでに大きな「仕掛け」を用意したのは、従来的なラブロマンス展開を超越してみせたいという監督自身の野心であったのかもしれません。そういった部分で評価の難しい作品なのですが、もう一度観れば評価が化けそうな気もします。

f:id:globalhead:20181224085123j:plain

主演のシャールクは安定の演技、踊りのシーンも最高に楽しくいつも通り魅了されました。いやあ、やっぱりスクリーンでシャールクを見るのは幸せなことですね!アヌーシュカ・シャルマーは車椅子に乗っている上に脳性麻痺でぎこちない動きしか出来ない、という難しい役を、決して痛々しく感じさせることなく、さらにチャーミングさすら感じさせる演技を見せていました。一方カトリーナ・カイフは酒びたりで行動が支離滅裂な映画女優という汚れな役柄を堂々と演じ、演技の幅を見せ付けてくれました。ビッチなカトリーナ、最高にセクシーだったな!さらに今作では鼻血が噴出しそうなぐらいに膨大な数のボリウッド俳優のカメオ出演が見られますので、もうこれらのシーンだけでもチケット代の元を取ったようなものです。う~んやっぱりもう一度観たい!

f:id:globalhead:20181224085009j:plain



Zero | Official Trailer | Shah Rukh Khan | Aanand L Rai | Anushka | Katrina | 21 Dec 2018