キュートでポップなダーク・ファンタジー〜映画『コララインとボタンの魔女』

コララインとボタンの魔女 (監督:ヘンリー・セリック 2009年アメリカ映画)


11歳の少女コララインは引っ越してきたばかりの家で異界への扉を見つけてしまう。そこには本当のパパやママよりもずっと素敵な両親がいてコララインを優しく迎えるのだが、この世界の住人は何故か皆目がボタンになっている…。『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス 』のヘンリー・セリック監督によるストップモーションアニメ。というか、実はこの作品を見るまで『ナイトメアー〜 』の監督はずっとティム・バートンだとばかり思っていた。こういう勘違いって他にも一杯ありそうでコワイ…。

オレはこの作品、3D版Blu-rayを購入して観た。これは通常のディスクと3D版ディスクの2枚組になっており、3D版のほうは付属の赤緑メガネで観るいわゆるアナグリフ方式。メガネは4つ付いており、家族みんなで観ることも出来るだろう。これがどれだけ立体的かというと、まあまあ頑張っているじゃない?というのが感想。TVの大きさや画質、明るさによっても見え方が違うだろうから、画質や明るさはTV側の方で調整して観たらいいんじゃないかな。ただ、一所懸命立体を味わおう!と構えて観ちゃったもんだから、途中から疲れて飽きてきたのも確か。Blu-rayはそのままでも十分綺麗だから、通常の2D版でも遜色ない。3D版はコレクターズアイテムと割りきって買うのが一番いいかも。

物語の方は『ナイトメアー〜 』を彷彿させるダーク・ファンタジー。ちょっぴりキュートでファンシーで、でもどことなくコワくてイビツな造型の人形たちが、日常と非日常の世界を行き来する。この辺の物語展開は原作者であるファンタジー作家ニール・ゲイマンの面目躍如といったところだろう。アート・ディレクションは『ナイトメアー〜』と比べてライトでポップ、作り込みが程々なのが逆に映画を観ていて疲れなくていい。少女が主人公のせいかパステル・カラーも多用され親しみやすい。物語はどことなくこじんまりとまとまってしまったような気がするが、手間の掛かる人形アニメだとこのぐらいが逆に順当なのかも知れない。

そして幽霊や魔女、その他異形の存在が蠢くダークなビジュアルは個人的にはピクサーCGの健全さよりも親近感を覚える。やはりどこかイビツだったり薄気味悪かったりするほうがオレは観ていて安心するのだ。明るく楽しい物語は嫌いではないが、どこかに死や非現実の臭いがしないと落ち着かないところがある。難儀な性格である。この『コララインとボタンの魔女』は、完璧だとは言わないが貶す部分も見当たらない優れた人形アニメと言える。人形アニメの微妙にぎこちない動きは、物語の内容にかかわらず、やはりどこか"異形"なものを感じる。そこが人形アニメに興味をかきたてられる理由なのかもしれない。