ミッシェル・オスロ監督によるフランス産アニメーション『古(いにしえ)の王子と3つの花』を観た

古(いにしえ)の王子と3つの花 (監督:ミッシェル・オスロ 2022年フランス・ベルギー映画

フランスのアニメーション監督ミッシェル・オスロ

一時海外製作のアニメにハマったことがあり様々な作品を観たが、その中でも特に魅せられたのはフランスのアニメ監督ミッシェル・オスロの作品だった。中でも『アズールとアスマール』の素晴らしさは、その時一緒に観た相方さんとの間で今でも語り草になっている。オスロ監督作品の多くは御伽噺的なファンタジー・ストーリーで、その魅力はシンプルなグラフィックに込められた匂い立つようなエキゾチズムと色彩豊かな映像だ。オスロ監督作品は日本でもコンスタントに公開されており、新作が公開されるたびに相方さんと一緒に観に行っている。

そのミッシェル・オスロ監督による新作アニメが公開された。タイトルは『古(いにしえ)の王子と3つの花』、3つの作品のオムニバスになっており、どれもオスロ監督らしい美しい映像に彩られたエキゾチックな御伽噺的作品となっている。

【物語】クシュ王国の王子は結婚を認めてもらうため、エジプト遠征の旅に出て、神々に祈り祝福されながら戦わずして国々を降伏させ、上下エジプトを統一、最初の黒人ファラオとなる。中世フランスの酷薄な城主に追いやられた王子は、地下牢の囚人を逃がした罪で森に追放されるが、数年後美しき野生児として城主に立ち向かう。モロッコ王宮を追われた王子は、雇われたお店の揚げ菓子を通じて国から出た事がない王女と出合い、2人は宮殿を抜け出し自分たちで生きていく。自分を信じることで自らの運命を変え幸福を手にする、至福の映像美で巡る3つの都、3つの時代の物語。

Pharaon, le sauvage et la maîtresse des roses

3つの物語

3つの物語はそれぞれ、古代エジプトを舞台にした『ファラオ』、中世フランスを舞台にした『美しき野生児』、18世紀モロッコを舞台にした『バラの王女と揚げ菓子の王子』といったタイトルの作品となっている。

『ファラオ』

約3000年前の昔、現在のスーダンに位置したクシュ王国。王子タヌエカマニと王女ナサルサは愛し合っていたが、摂政の地位にいたナサルサの母はタヌエカマニがエジプト統一王ファラオにならなければ結婚を許さないという。そこでタヌエカマニが選んだ道とは。

もう古代エジプトが舞台だというだけで心躍らされるではないか。ここではファラオになるためにエジプトの様々な国を経巡る王子の姿が描かれるが、その都度エジプトの神々が現れて王子の助言を与える。物語はそれが繰り返され心地よいリズムを醸し出す。神々の登場するシーンはおそろしくファンタジックで、全編を貫く古代エジプトのエキゾチズムにも陶然とさせられる。

この物語では己の心を偽らぬ王子が、その真正さにより次第に功徳を積んでゆく様を描くが、こういった寓話的構造もまた安心して観ていられる要素だろう。とはいえこの物語、実際に存在したファラオの半生をモチーフにした作品なのらしい。古代エジプトフレスコ画のような常に横向きの顔・正面を向いた体、という人物描写で描かれてゆく物語だが、時折正面を向くのでちょっとびっくりさせられる。

『美しき野生児』

フランス・オーヴェルニュの城に暮らす小さな王子はいつも父王に邪魔者扱いされ、地下牢に捕われた囚人との会話だけが心の慰めだった。ある日囚人から脱獄させてくれと懇願された王子は彼を逃がしてあげるのだが……。

この作品では手法を変え、影絵的な技法をメインにして物語が進んでゆく。影絵的な技法はオスロ監督の得意とするところで、過去にも『プリンス&プリンセス』『夜のとばりの物語』で同様の手法を使ったアニメを制作していた。また、この影絵的な技法は子供の頃に観たTVアニメでよく使われていた技法で、ちょっと懐かしさを感じさせた。中世フランスを舞台に剣呑な父王、虐げられた王子、暗い牢獄、謎の「美しき野生児」が村人たちを救う様など、物語それ自体もまさに御伽噺で、観ていて心和まされた。

『バラの王女と揚げ菓子の王子』

謀反によりモロッコの王宮から追放された王子は、かつて肖像画を見て憧れていたバラの王女の国へ逃げ込む。揚げ菓子屋に雇われた王子はバラの王女に会うために王宮に揚げ菓子を運ぶが、王女との逢瀬は一筋縄ではいかなかった!

『ファラオ』『美しき野生児』は短編サイズのアニメだったが、この作品は中編サイズの長さとなっており、またアニメーション表現も全2作と比べると様式に拘らない最も現代アニメに近い形になっている。物語性もなお一層豊かなものになり、煌めくように美しい美術表現はオスロ監督の傑作アニメ『アズールとアスマール』に通じる目も彩なファタジックさに満ち溢れている。

物語はある王子が深窓の令嬢ならぬ深窓の王女に恋のアタックを繰り広げるといういわゆるボーイ・ミーツ・ガール的な御伽噺の常套的な内容で、これもまた非常に安心して観ていられた。王子とはいえ今は平民に身を落とした存在、王宮になど入れば護衛にコテンパンにされてしまう。そこで王子と王女が策を練り……という展開、王子の臨機応変な機転や王女のちょっとした茶目っ気も大いに物語を楽しくさせていた。

ここでも目を惹くのは18世紀北アフリカのオリエンタルな美術だ。カラフルで豪華絢爛、王族たちのエキゾチックな衣装と光り輝く宝飾はファンタジー世界に浸る歓びを否応なく感じさせる。そしてなにより「揚げ菓子」に代表される映画に登場する食べ物の美味しそうなことといったら!

……という訳で3作品、時代は違えどどれも一人の王子が様々な困難の果てに望むものを手に入れるという御伽噺であり寓話である。ある意味古くから在る物語の原型であり、時代を超越した物語性を持った作品であるといえるだろう。大人にも子供にも十分受け入れられる作品であると同時に、その美術の素晴らしさはむしろ大人にこそ堪能して欲しい。

『古(いにしえ)の王子と3つの花』予告編

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