オレ的アニメ映画ベストテン

ワッシュさんの「アニメ映画ベストテン」に参加します。
今回オレの「アニメ映画ベストテン」では、アート・アニメ、ユーロ・アニメを中心に選んでみました。お馴染みの定番作品でもよかったんですが、いい機会なので自分がこれまで観て面白かったアート・アニメ関係をひとまとめにすることで、このジャンルに馴染のない方に多少なりとも関心を持ってもらいたかったんです。まあ実際自分もこのジャンルのアニメを全て観ているわけではなく、また自分の好みからヘルミーナ・ティールロヴァーやイジー・トルンカチェコ・アニメの巨匠の作品は抜けているんですが、何かの参考にしていただければ嬉しいです。では行ってみよう!

1位:話の話 (監督:ユーリ・ノルシュテイン 1979年ロシア映画)


ユーロ・アニメーション界で最も重要な存在といえばユーリ・ノルシュテインをおいて他にいないでしょう。そのノルシュテインによる至宝の作品『話の話』は、切り絵をベースとしたアニメであり、暗く色相の低いおぼろな輪郭の映像の中に、詩情豊かで幻想味溢れる世界がしんしんと広がってゆくのです。物語は多層的な構成を成し、様々なイメージが夢のように現れては消え、そして繰り返されてゆきます。それらのイメージは奇妙におぼろで、どこか物寂しく、儚げです。そしてそれら紡ぎ合わされたイメージから伝わってくるのは、戦時下のロシアの悲哀に満ちた空気、失われた幸福の思い出、その切なさなんです。若干難解な作品ではありますが、お芋を食べる二足歩行の子供オオカミや、縄跳びをする牛を眺めているだけでも、なんだかふわっと心が持って行かれてしまうんです。この『話の話』はDVD『ユーリ・ノルシュテイン作品集』に収められている一篇ですが、『霧の中のハリネズミ』なんかも好きだなあ。

ユーリ・ノルシュテイン作品集 [DVD]

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2位:ストリート・オブ・クロコダイル (監督:スティーブン・クエイ、ティモシー・クエイ 1986年アメリカ映画)


双子の映像作家ブラザーズ・クエイ(スティーブン・クエイ、ティモシー・クエイ)によるストップ・モーション・アニメ『ストリート・オブ・クロコダイル』は、なによりその透徹した退廃性に目を奪われるだろう。永遠の夜の如き闇の中、半ばがらくたとなった人形たちが鬼火のように目を輝かせ、錆だらけのネジがクルクルと踊り、テーブルから湧きだした生肉は芋虫のように這い回る。腐食と腐敗のイメージに満ちた禍々しくもまた妖しい映像は、幻想的であり怪奇趣味的であり、なにより超現実的な世界を形作っているのだ。原作はあるようなのだが、なにしろ物語らしい物語をここから読み取ることは困難で、観る者は目の前で繰り広げられる異様なまでの陰鬱さにひたすら心胆寒からしめるか、あるいはうんざりさせられることだろう。そのどちらであろうとも、観終わった後に、「今観たものはいったいなんだったのだ?」と呆然とさせられているに違いない。

ブラザーズ・クエイ ショート・フィルム・コレクション [DVD]

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3位:サヴァイヴィング・ライフ -夢は第二の人生- (監督:ヤン・シュバンクマイエル 2010年チェコ映画)


チェコ出身のシュルレアリスト/パペット・アニメ映像作家、ヤン・シュヴァンクマイエルの長編新作映画『サヴァイヴィング・ライフ -夢は第二の人生-』は【夢】をテーマにした奇想奇天烈な物語です。映画は写真切り絵のアニメーションと実写の混合で製作され、例によってシュヴァンクマイエルらしいシュールな映像を堪能することが出来ます。シュヴァンクマイエルは初期のグロテスクなストップモーション・アニメのほうが有名だと思いますが、あえて最新作を選んでみました。  《レヴュー

サヴァイヴィングライフ -夢は第二の人生- [DVD]

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4位:ファンタスティック・プラネット (監督:ルネ・ラルー 1973年フランス/チェコ映画)


ファンタスティック・プラネット』はフランスのアニメ作家ルネ・ラルーによるSFアニメ。切絵の手法を使った奇妙な動きのアニメーションと、ロラン・トポール原画による暗く陰鬱でシュールな絵、そしてペシミズム溢れるストーリーでカルト的な人気を誇るアニメーションである。この物語の舞台は惑星イガム。ここに住む巨人族ドラーグ人は、彼等から見れば豆粒ほどの大きさの人類を奴隷とし、迫害していた。しかしある日人間達はドラーグ人に叛旗を翻し…というストーリーなのだが、この映画での人間が、虫けらのように扱われ、嬲り殺されペットにされる様子が凄まじい。 《レヴュー

5位:チェブラーシカ (監督:ロマン・カチャーノフ 1969年ロシア映画)


南国産オレンジの箱一緒に詰められてやって来た、小熊みたいな、小猿みたいな、不思議な生き物チェブラーシカ人形アニメチェブラーシカ』は、そんなチェブとワニのゲーナ、謎の意地悪婆さんシャパクリャクらが登場し、小さな騒動を通しながら友情の輪を広げてゆく微笑ましい物語です。もこもこした主人公キャラが可愛らしい、というのもありますが、この物語もロシアらしいどこかはかなげな哀感がこもっているんです。そんな部分が、世に多く存在する同工の人形アニメよりも心を惹きつけてやまない部分なのではないかと思います。

チェブラーシカ [DVD]

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6位:アズールとアスマール (監督:ミッシェル・オスロ 2006年フランス映画)


ヨーロッパのある国で、アラブ人の乳母により育てられた白人少年アズールと乳母の息子であるアラブ人少年アスマール。二人は背格好のよく似た男の子で、肌の色の違いさえなければまるで双子のようだ。成長したアズールは乳母であったアスマールの母からかつて聞かされた妖精の伝説を確かめるために海を渡りアラブの地へと渡る。この作品、どのシーンも神々しいまでに美しい。場面が移り変わるたびに現れる情景の美しさに思わず目を奪われる。イスラム様式の建物、そしてその内装を無限に覆う幾何学的なアラベスク模様の精緻な美観。画面の構成もシンメトリーを多用した非常に様式性の高いもので、どの場面もあたかも絵画のように壮麗だ。いや、絵画というよりも最良の絵本を見せられているようだ。そしてその物語は力強く気高く、輝くような啓示に満ちている。 《レヴュー

アズールとアスマール [Blu-ray]

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7位:アクメッド王子の冒険 (監督:ロッテ・ライニガー 1927年ドイツ映画)


実ははこれ、非常に古い作品です。今から80年前、1926年にドイツで製作されたもので、これに映像修復と彩色を加え、サウンドをオーケストラにより新録音したことにより現在の形となっています。ネットで見ると「世界初の長編アニメ」は1973年製作の「白雪姫」という情報が多いですが、製作年からいってこの「アクメッド王子の冒険」が実質「世界初の長編アニメ」ということになるでしょう。物語はアラビアンナイトを下敷きにした幻想的な冒険ファンタジー。アラブのとある王国の王子アクメッドが、魔法使いの姦計により見知らぬ国へと飛ばされ、そこで数々の冒険、恋、戦いを繰り広げます。ある意味通俗的過ぎるぐらいの物語ですが、だからこそ逆に”影絵”の美しいフォルムと動きを堪能できるのではないかと思います。 《レヴュー

8位:岸辺のふたり (監督:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット 2000年イギリス・オランダ映画)


オランダの短編アニメーション(8分)。2001年アカデミー賞短編アニメーション賞受賞。岸辺の真っ直ぐな真っ直ぐな道を自転車で走りぬけて行く父娘。父は木立の前で自転車を止めると、戸惑う小さな娘を抱きしめ、そして小さなボートに乗ると一人海の彼方へと漕ぎ出し去ってしまう。それから幾年月…。殆どセピア色のみの淡色で描かれるシンプルだが美しい描線、長い影だけがどこまでも続く淋しげな風景、巧みに描かれる四季の移り変わり、そして短い作品時間の中で表現される娘の成長と時間の流れ。音楽は聴けば誰でも思い出すであろう「ドナウ川のさざ波」。奇妙な郷愁と切なさに満ちた珠玉作。 《レヴュー

岸辺のふたり HDリマスター版 マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット作品集 [DVD]

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9位:ほら男爵の冒険 (監督:カレル・ゼマン 1961年チェコ映画)


チェコスロバキアを代表するアニメ作家、カレル・ゼマンの冒険ファンタジー。この作品はタイトル通り誰もが知るあの「ほら男爵の冒険」を描いたもの。ゼマンの作品はアートを目指したものではなく、ジョルジュ・メリエス譲りの奇想天外な映像の喜びを追及したものです。そういった意味ではまさに娯楽映画なんです。この『ほら男爵の冒険』でも実写とアニメを合成しながら摩訶不思議な世界を描きますが、製作された時代もあって特撮や合成が相当ローテクなのにもかかわらず、遊び心が豊かであり、そして今観るとキッチュなレトロさを感じさせるんですね。ゼマン自身、本物っぽい特撮よりも、あえて紙芝居みたいな合成を選んで製作しているように思います。この素朴な絵作りがとても伸び伸びしていて楽しいんですよ。

幻想の魔術師カレル・ゼマン ほら男爵の冒険 [DVD]

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10位:クレオパトラ (監督:手塚治虫/山本暎一 1970年日本映画)


10位は日本のアニメを。この『クレオパトラ』は手塚治虫が原案・構成・監督を務め虫プロにより「大人向けのアニメ」として製作されたもので、そのせいか適度にエロティックである。物語は故国エジプトを守るためにクレオパトラがシーザー、アントニウスの暗殺を託される、といったもので、さらにSF的な要素も加味されている。ただし要所要所に手塚らしい悪ノリしまくったおふざけが入り、ある意味怪作かもしれない。実は子供の頃にTVで観て、いつも観ている子供向けのアニメとは違うただならぬ雰囲気を感じ、非常に心に残っていた。それは歴史に翻弄される一人の女を描いた、この物語の無常感からだろう。由紀さおりの歌う主題歌も忘れられなかった。

…というわけで、ワッシュさん集計よろしく!

1位:話の話 (監督:ユーリ・ノルシュテイン 1979年ロシア映画)
2位:ストリート・オブ・クロコダイル (監督:ブラザース・クエイ 1983〜1988年アメリカ映画)
3位:サヴァイヴィング・ライフ -夢は第二の人生-(監督:ヤン・シュバンクマイエル 2010年チェコ映画)
4位:ファンタスティック・プラネット (監督:ルネ・ラルー 1973年フランス/チェコ映画)
5位:チェブラーシカ (監督:ロマン・カチャーノフ 1969年ロシア映画)
6位:アズールとアスマール (監督:ミッシェル・オスロ 2006年フランス映画)
7位:アクメッド王子の冒険 (監督:ロッテ・ライニガー 1927年ドイツ映画)
8位:岸辺のふたり (監督:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット 2000年イギリス・オランダ映画)
9位:ほら男爵の冒険 (監督:カレル・ゼマン 1961年チェコ映画)
10位:クレオパトラ(監督:手塚治虫/山本暎一 1970年日本映画)