地下世界に蠢く異形の群れ/ ストップモーションアニメ『JUNK HEAD』 を観た。

JUNK HEAD (監督:堀貴秀 2017年日本映画)

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クリエイター・堀貴秀が少数のスタッフのみで7年の歳月を費やし製作したSFストップモーションアニメ『JUNK HEAD』が話題になっていたので観に行くことにした。この作品で堀貴秀は原案、絵コンテ、脚本、編集、撮影、演出、照明、アニメーター、デザイン、人形、セット、衣装、映像効果など殆ど全てを担当したのだという。

《物語》環境破壊により滅亡に瀕していた人類は地下世界に版図を広げたが、労働力として開発された人工生命マリガンが反乱を起こし地下は乗っ取られてしまう。それから千数百年後、人類は遺伝子改良により不死を得ていたものの生殖能力を失い、マリガンの遺伝子を研究することで活路を見出そうとしていた。そして地下世界に一人の男が派遣されることになる。しかしそこで男が見たものは、異形と化したマリガンたちの蠢く不気味な異世界だった。

ストップモーションアニメとして有名なのはレイ・ハリーハウゼンによる、神話世界のクリーチャーが生々しく動き回る『シンドバッド』シリーズをはじめとした数々の特撮映画だろうか。『ロボコップ』や『スターウォーズ』でストップモーションアニメを担当したフィル・ティペットの名も忘れることはできないだろう。近年ではストップモーションアニメの手法も洗練され、トラヴィス・ナイト率いるライカの作品群(『コララインとボタンの魔女』『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』など) はストップモーションなのかCGなのか判別できないほどに洗練されている。

しかしストップモーションアニメとして個人的に愛着があるのは、ブラザーズ・クエイによる『ストリート・オブ・クロコダイル』や、ヤン・シュバンクマイエルの『アリス』『オテサーネク』といったアートアニメ作品群だ。これらはシュールレアリズムの系譜にある実験的な作品であり、どれも不気味で薄暗く、グロテスクかつ蠱惑的なもので、強烈な作家性と優れた美意識を感じさせるのだ。彼らの作品は以前「オレ的アニメ映画ベストテン」という記事で紹介してあるので、興味の湧いた方はご一読を。

さて今作『JUNK HEAD』はどうだろう。まず少数精鋭による7年の歳月を掛けた力作であるといった点は忘れよう。オレが『JUNK HEAD』を観て感じたのは、SF作品としてのポップで親しみ易い体裁と、時折クスリと笑わせる分かり易い物語を兼ね備えながら、ブラザーズ・クエイの廃物感覚とヤン・シュバンクマイエルのグロテスクさを併せ持った、実に今日的なハイブリッド感覚溢れる作品だったという事だ。切断された首で子供たちが蹴鞠するシーンなどは、デヴィッド・リンチ作品『イレイザーヘッド』をも髣髴させるではないか。そういって点で、監督である堀貴秀にはメジャーな匂いをさせたアートアニメ作家の片鱗が伺わせられるのだ。

全体的には、特にストーリーテリングの在り方としてまだ過渡的な部分や練りこみ不足、切り込みしたほうが良いと思われる部分も感じるが、これが長編第1作として考えるなら、十分に力を出し切った良作ではないか。ストップモーションアニメとしての技術的な部分においてオレは何か言える知識はないが、しかし後半のアクションとそのスピード感については「よくもまあここまでやったものだな」と感嘆した。ビジュアルセンスもオレの好みだ。続編の構想もあるという事らしく、確かに物語はまだ終わっていなさそうだったが、この続きがあるのだとすれば経験を生かしたより一層シャープで深化した物語とヴィジュアルを楽しめそうだ。監督・堀貴秀の今後の作品に大いに期待したい。 

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