不気味に蠢く操り人形!/映画『ファウスト』【ヤン・シュヴァンクマイエル週間その2】

ファウスト (監督:ヤン・シュヴァンクマイエル 1994年イギリス・フランス・ドイツ・チェコ映画

ヤン・シュヴァンクマイエル ファウスト [Blu-ray]

 奇妙な地図に導かれ男がやってきたのは旧く不気味な建物。そこは地下には劇場があり、錬金術の実験室や食堂にもつながる奇妙な場所だった。そこに現れた悪魔に誘惑された男は、メフィストフェレスを呼び出し、挙げ句あらゆる快楽と知識とを引き換えに、悪魔の王ルシファーに自分の魂を売り渡す契約をとりかわしてしまう。

人生に退屈した学者ファウストは宇宙の神秘を知り尽くすために悪魔メフィストフェレスとの契約を果たす。ゲーテによる戯曲で有名な『ファウスト』はもともとはドイツの伝承として語り継がれてきた物語であり、13世紀末に実在したゲオルグ・サベリクスという男の生涯がその大元になっているのだという。シュヴァンクマイエルの描く『ファウスト』もこのファウスト伝説から借りてきた物語だが、そこはシュヴァンクマイエル、非常に特異な構成を持った作品となっている。

まず主人公はその辺の冴えないおっさん。このおっさんが謎の地図を手に入れ、行ってみるとそこは奇妙な劇場であり、その劇場でおっさんはファウストを演じることになってしまうのだ。しかもおっさんと劇を演じるのは誰が操っているのかもわからない等身大の操り人形。劇を演じるうちに虚構のファウストとおっさんの現実は混じり合い、おっさんは遂に本当に悪魔との契約を果たしてしまう、というのがこの物語だ。

この作品ではドロドロと蠢き回る粘土のメフィストフェレスストップモーションアニメで描く部分が楽しいが、しかし最も特筆すべきなのは不気味極まりない等身大の操り人形の姿だろう。ヨーロッパの祭りなどでもたまに見かけるが、日本のなまはげにも通じる土俗的で薄気味悪いフォルムをしているのだ。なにしろこんな感じ。 

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なにより怖いのは、これが「等身大」ということなのだ。 なんだか異様な生々しさと威圧感があるのだ。しかも、「操り人形」だと思って観ていると、動きがあまりに人間臭いことが段々と気になってくる。やがて、「これ操り人形ちゃう、中に人間が入ってる……」ということに気付かされるのだ。操り人形の被り物をして操り人形のような動きをしている人間、でも物語では操り人形という事になっている。しかし場面によっては本当の操り人形も登場している。この生物(人間)と非生物(人形)の境界を曖昧にし混交させながら描かれる部分が、なんだかとても気持ち悪いのだ。

アニメーションというのは生命無きものをあたかも生命があるかの如く描くのがその役割であり本質だろう。シュヴァンクマイエルがその作品で多用するストップモーションアニメはまさにそれを体現するためのものであり、さらにシュヴァンクマイエルはそれを「生きてはいないのに生きているかのように動くものの気持ち悪さ」として表出させる。そして操り人形を広義でアニメーションであるととらえるなら、この作品における「中に人間が入っていたりいなかったりするする、曖昧な状態の操り人形」は、実にシュヴァンクマイエルらしい「気持ち悪さ」に満ちた存在だと言える。

なにしろ「女装した悪魔の操り人形」を主人公のおっさんが女性だと思ってセックスしちゃうシーンとか、倒錯しまくり過ぎていてオレは変な笑いが漏れてしまいましたよ……。 おまけにこの人形の股間にあらかじめドリルで穴開けておくとかさあ……。シュヴァンクマイエル、アートアニメ作家とかシュルレアリストとかいう前に、まず普通に変態だろ!(褒めている)