やあみんな!気持ちイイことしてる!?/映画『悦楽共犯者』【ヤン・シュヴァンクマイエル週間その4】

悦楽共犯者 (監督:ヤン・シュヴァンクマイエル 1996年チェコ・イギリス・スイス映画

ヤン・シュヴァンクマイエル 悦楽共犯者 [DVD]

1996年に公開されたヤン・シュヴァンクマイエルの長編第3作『悦楽共犯者』は、6人の男女が己が悦楽を極めるため、それぞれに「自慰機械」の製作に没頭する、という物語である。いやーしかし「自慰機械」て。シュバンクマイエル、かっ飛んでますなあ。しかしそこはシュヴァンクマイエル、決してエロを追求した下ネタ映画ではなく、得意のストップモーションを駆使した、実にシュルレアリストらしい作品に仕上がっているのだ。ちなみに物語にセリフは一切使われない。

登場する6人はこんな方々。彼らはそれぞれに正体不明のリビドーに突き動かされ、それぞれになんだかよく分からないものを作り始めるのだ。 

ピヴォイネ(主人公?)……鶏の頭の被り物と翼を制作し、鳥になります。

マールコヴァ(郵便配達婦)……小さなパンの固まりを幾つも作り、吸い込みます。

ベルティンスキー(ヒゲ男)……刷毛や指サックや麺棒で愛撫機械を作ります。

クラ(本屋)……電子機器と人形の腕を組み合わせてロボット的な何かを作ります。

ロウバロヴァ(中年女)……藁を集め、蝋燭を買い、廃屋にしけこみ、大暴れ。

アナ(アナウンサー)……巨大な2匹の鯉を手に入れシクシク泣いています。

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鳥になれぇ~~(by五輪真弓

「快楽を極める」とか「自慰機械」とか書いたが、何がなんだかよく分からないものが幾つもある。主人公ピヴォイネ、なんで鳥になるんだ。マールコヴァはパンの固まりを吸い込んでどうするんだ。ベルティンスキーとクラは愛撫機械を作ることになるのだが、なんでそんな凝りまくってるんだ。ロウバロヴァはいきなり豹変するから笑えるぞ。そしてアナ、飼ったコイのその行方は……。

彼らの行きつくことになる「快楽」は、どれもフェティシズム感溢れる倒錯的なもので、いわゆる「普通」な欲望、快楽とはどうにも道が外れている。ではこれは6人の変態さんを集めた物語なのか?変態さんの奇異な性向を見世物にして楽しむ作品なのか?いやそうではない。実のところ欲望も快楽の形も人それぞれで、振り幅の差はあれども、「普通」なんて言葉で一からげにできない、極めて個人的なものなのではないか。すなわちこの物語は、人はそれぞれに自由でありアバンギャルドな存在であると宣言してみせたものではないか。

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あ……ああああ……たまんねえ!

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これがね、うにょうにょ動くんですよ。

とは言え、一見こうした形で「人の快楽の多様さ」 を描いたようにも見えるこの物語、実は本質はそこではないようにオレには思えるのだ。この作品は、同じ「快楽」でも、「性愛」の快楽ではなく、「物作り」の快楽を描いたものなのではないかとオレは思うのだ。

登場する6人のうち幾人かは、己の快楽を完遂する為に、あまりにも手の混んだ「モノ」を作る。最終的には快楽装置となるそれだが、回りくどすぎるのだ。狂気すら感じさせる作りこみなのだ。快楽そのものよりも、「作る」ことが目的化しているようにすら思えるのだ。そして完成したそれぞれの「モノ」は、異様であり異形である、ある意味シュヴァンクマイエルの作る映画そのもののような「変なカタチ」をしているのだ。 

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ワハハ本舗のウメちゃんじゃないよ!

これはすなわち、シュヴァンクマイエルが一人のシュルレアリストとしてダダイストとして、映画という作品(モノ)を作る事の快楽と愉悦そのものを、6人の登場人物に仮託して描いたものなのではないのか。物語における性衝動を製作衝動としてとらえ、その衝動にまつわる妄想/物語を、快楽機械/映画作品として昇華してゆく事、そしてその「モノ作り」行為に没頭する愉悦あるいは慰撫を、「自慰行為」に名を変えて映画に表出させることがこの作品だったのではないだろうか。モノを作ること、それはつまり「創造」である。この映画は、その「創造の喜び」を謳歌した作品なのではないだろうか。

で、そんな映画を作ったのがなにしろシュヴァンクマイエルなんで、どうにもこうにも変態さん大集合な見た目の映画になっちゃった!ってことじゃないかな。ま、シュヴァンクマイエルからしょうがないよね!まあやっぱ変態さんなのは間違いないし!

ちなみに映画の中で登場人物の一人クラが、女性アナウンサーの唇が大写しになったTV画面に顔をくっつけレロレロするシーンがあるんだが、これってクローネンバーグ監督の『ビデオドローム』を彷彿させるよね。『ビデオドローム』は1982年公開でこの映画は1996年公開ってことを考えると、ひょっとしてシュヴァンクマイエル映画にクローネンバーグ作品の影響が!?なんて想像しちゃってちょっと楽しかったな。クラの作る自慰機械はクリス・カニンガムのPVに出てくる自動演奏機械と似ているのもニヤリとさせられた。あと究極の快楽を得るためにアブノーマル行為に走る、なんてのは『イレイザーヘッド』を思い出したよ。シュヴァンクマイエル映画、結構ホラーと親和性が高いんだよな!

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  • 発売日: 2005/02/23
  • メディア: DVD