「人喰い切り株」がやってくる!/映画『オテサーネク』【ヤン・シュヴァンクマイエル週間その1】

オテサーネク (監督:ヤン・シュヴァンクマイエル 2001年チェコ・イギリス映画)

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不妊に悩む夫婦がいた。ある日、夫が庭の手入れをしていると、偶然見つけた切り株が、子供の形に見えたことから、それを持って帰って奥さんに見せると、彼女はそれを我が子と信じ、人間の子のように世話をしはじめる。ご飯を与えても与えても“もっと食べたい"と訴える我が子に、夫婦は大量の食料を買い込み、せっせと食事を与え続けるのだが......

蠢く生肉、怪しく躍る人形、高速で腐り果てる食物。チェコスロバキアプラハ生まれのシュルレアリストヤン・シュヴァンクマイエルの映画作品は、そんな不気味でグロテスクなイメージに満ち溢れている。彼の作品はいわゆるアート・アニメのジャンルで語られるが、下世話でナンセンスなテイストを持つその映像は、大衆的なホラー作品やファンタジー作品として楽しむことも十分可能だ。

そのシュヴァンクマイエルによる『オテサーネク』は、「人喰い切り株が大暴れ!」というホラー作品である。この「人喰い切り株」ことオテサーネク、 実はチェコの昔話に登場する化け物で、チェコ人なら知らない者はいないという存在らしい。物語は子宝に恵まれない夫婦が赤ん坊の形をした切り株を見つけ、それを世話し始めたらなぜだか命を持ってしまい、次第に「もっと食い物を!」と要求しだす、というものだ。遂に人肉の味を覚えた切り株は夫婦の住むアパートの訪問者や住民を次々と屠ってゆき、どんどん巨大化し始めるのだ。

まず見どころとなるのは、この切り株が生きているかの如く蠢くさまをストップモーションアニメで描いている点だ。こんな切り株なんですよ?これがザワザワと蠢き回るんですよ?でも赤ん坊という設定だからいつも「おぎゃあおぎゃあ!」と泣いてるんですよ!?いやあ気色悪いですね!おまけに切り株のクセして人間みたいな歯や舌まで生えてて、それがレロレロ動くもんだからさらに気色悪さは倍増です(おまけにちんちんや尻の穴まである)!

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こんちわー、僕オテサーネクでっす。

物語はアパートに住む一人の少女の視点から描かれるが、地下室に閉じ込められた「切り株生命オテサーネク」を発見した少女は、この気色悪い生き物に妙な愛情を持ってしまい、食物として密かにアパートの住人を差し出し始めるのだ。いわゆる「怪物と無垢な少女」のモチーフが持ち込まれているんだね。で、最初にエサとして差し出されるのが少女を追い回していたロリコン爺ってところがなかなか笑わせてくれる!

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ギャー!食われるー!

粗筋だけ書くと陰鬱極まりないモンスターホラーのようにも思えてしまうが、恐怖や不安を中心的にクローズアップするのではなく、原典であるチェコ民話の持つ「貧欲」をテーマとした寓話作品として完成しており、さらに全体的にとぼけた味わいが横溢している。まあ、「人喰い切り株」だなんて、よく考えりゃあバカな話だしね!

作品内では民話のオテサーネクをアニメーションで紹介していて、これもまたなかなか不気味で楽しい。あと映画の中で出てくる食べ物がことごとく不味そうで、これは監督の幼少時の摂食障害が反映されているのらしく、「貧欲」と「摂食忌避」が対立構造になっている部分が面白い。なんでも無節操に食いまくるオテサーネクの民話は、食べるのが嫌いだった幼少時の監督にとって、最凶におぞましい物語だったに違いない!

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オテサーネク―妄想の子供

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