髑髏 / フィリップ・K・ディック

髑髏 (ダーク・ファンタジー・コレクション)

髑髏 (ダーク・ファンタジー・コレクション)

なんとP・K・ディックの"新刊"である。「未発表長編原稿が発見された!?」とかいうのではなく、初期のディックの既訳・未訳短篇を寄せ集めたものなのだが、これが思いのほか面白い。
ディックはパルプ雑誌に掲載されていた時代の初期短篇が最も面白い、という評価もあるが、それも十分に頷ける。確かに描写されているテクノロジーには時代を感じさせはするが、ディック流の「真か偽か」「現実か非現実か」というテーマがストレートに描かれていて小気味いいのだ。その真と偽、現実と非現実はいつの間にか入れ替わり、登場人物を翻弄してゆく様はディック長編にも通じるものがある。そしてどんな物語にも動きがあり、ダイナミックな展開が描かれる。
例えば「ウォー・ベテラン」などは短篇なのに実に起伏に富み、このままディック原作の映画化作品『トータル・リコール』のように映画化しても面白そうなのだ。さらにディック独特の苦さ、それもいやおうなく痛々しい現実を受け入れなければならない苦渋や葛藤もこれらの物語にはある。「髑髏」や「トニーとかぶと虫」、「生活必需品」などはそんな物語だろう。「矮人の王」は珍しくファンタジックな展開をみせるが、ファンタジー展開なのにも係わらずこれもどこか索漠とした現実を感じさせる。「火星人襲来」のやるせなさもこれもディック節と言えるだろう。
この短編集『髑髏』はディックの魅力をコンパクトにまとめたディック本としてディック未経験者からファンまで幅広く読まれるといいだろう。