『宇宙墓碑 現代中国SFアンソロジー』を読んだ

宇宙墓碑 現代中国SFアンソロジー / 倪 雪婷 (編), 立原 透耶・他 (翻訳)

宇宙墓碑 現代中国SFアンソロジー (ハヤカワ文庫SF)

幼い頃、私は火星の北極冠で、黒く光る四角い石碑の数々を見た。それは宇宙で死んだ飛行士たちの墓碑だった――星ぼしに建つ墓碑に魅せられた男を描く韓松による表題作、火星からの帰省ラッシュをコミカルに描いた馬伯庸の「大衝運」、ゾンビになった青年が恋人を守ろうと奮闘するさまを叙情たっぷりに描く阿缺「彼岸花」など、腕利きのアンソロジストが選び抜いた12篇を収録。無限の想像力が煌めく中国SFアンソロジー!

本書は韓松の表題作をはじめ、馬伯庸、宝樹、王晋康、阿缺ら現代中国を代表する作家たちの短編12篇を収録した一冊だ。火星の墓碑に魅せられた男の物語、帰省ラッシュのコミカルな混雑、ゾンビの恋愛、タイムトラベルや分岐世界など、多彩なテーマとアイデアが並ぶ、中国SFの入門書として刊行された。

率直に言うと、作品レベルは玉石混交だった。良作もあった一方で、退屈に感じる作品も少なくない。古臭い家族主義や野暮ったい恋愛描写、垢ぬけない感動ドラマが持ち込まれ、洗練さに欠け、感傷的すぎ、主語が大きく、山場もオチも弱い、同人的な独りよがりの作品が目についた。これまでケン・リュウや立原透耶が手がけた中華SFアンソロジーのほとんどを読んできたが、それらと比べると非常に見劣りしてしまうのが正直なところだ。アンソロジストである倪雪婷の紹介文も気取りが目立ち、そういったものも含めた選定センスが、自分の好みとかなりズレていたと思える。そんな中でも楽しめた作品を紹介しよう。

「最後のアーカイブ」(顧適) 人生をアーカイブ(セーブ)して任意の時点に戻りやり直せる未来社会の落とし穴を描くドタバタ作。泥臭く生々しい感情が行き交う場面に、中国人民のパワフルさを感じた。シニカルに展開しつつ、グッとくるラストを持ってくる構成も良い。

「大衝運」(馬伯庸) 火星から地球への帰省ラッシュでカオス状態の宇宙港を描く作品。春節帰省のパニックを宇宙に移し替えただけともいえるが、惑星間航行が可能な未来でも、ひたすらセコく世知辛く薄汚い人間社会をペーソスたっぷりに描いている。

「彼岸花」(阿缺) ゾンビアポカリプス世界で、人間的になってしまったゾンビの哀歓を描く。突出した部分はないものの、ゾンビストーリーとしては十分な新機軸を持ち込んでいる。ただ、少し感傷的すぎるきらいがある。

「恩赦実験」(宝樹) 死刑囚に恩赦と引き換えにある実験を持ちかける話。アイデアは小粒ながら、短い枚数の中にピリッとした展開を持ち込んでいる。

「月見潮」(王侃瑜) 本アンソロジーの白眉といえる傑作。双子惑星のそれぞれで潮汐力を研究する男女のロマンスを描きながら、性差や社会構造など双子惑星に象徴される様々な対立項を描き出し、現実の外交問題まで深読みできる優れたアレゴリーを備えた作品だ。ロマンス描写それ自体もスマートで甘すぎない。これまで読んだ中華SF全体を通じても高く評価できる一篇だ。

「宇宙の果ての本屋」(江波) 立原氏のアンソロジーでも読める秀作。「図書館宇宙船」が幾星霜をかけて銀河を経巡り、「自律型移動ファウンデーション」へと変貌していくという雄大なSF作品で、この中華SFらしい大風呂敷の広げ方がたまらなかった。

アンソロジーとはつまるところ、編者の感性を読むものでもある。倪雪婷の感性と自分の感性のズレを確認しながら、それでも「月見潮」に出会えたことは素直に喜びたい。