『宇宙の果ての本屋 現代中華SF傑作選』を読んだ

宇宙の果ての本屋 現代中華SF傑作選 /  立原透耶(編)

宇宙の果ての本屋 現代中華SF傑作選

第41回 日本SF大賞特別賞を受賞した立原透耶編纂の中華SFアンソロジーがついに発売。『時のきざはし 現代中華SF傑作選』に続き、掲載作家は『三体』の著者劉慈欣と並び称される、王晋康や韓松、何夕といったベテランをはじめ、梁清散、陳楸帆、宝樹など、中堅・新人の全15人。陸秋槎氏の新作「杞憂」の初邦訳作品をはじめ、20年前にこのコロナ禍を予言したかのような「死神の口づけ」(潭楷)ほか、SFから幻想譚まで豊富な内容で、表題作「宇宙の果ての本屋」(江波)は本好きなら誰もが感動する一編となっている。

劉慈欣の『三体』シリーズに衝撃を受け、中華SFを集中して読んでいた時期があった。中国系アメリカ人SF作家ケン・リュウが編纂したアンソロジー群も印象深いが、それとは別に、中華圏SF作品の翻訳・紹介に尽力した日本のSF作家・立原透耶による『時のきざはし 現代中華SF傑作選』も見逃せない一冊だ。立原氏はこうした中華圏SFを精力的に紹介した功績により、第41回日本SF大賞特別賞を受賞している。

その後は他ジャンルへと興味が移り、しばらく中華SFから遠ざかっていた。だが最近、韓国SF・奇想系の短編集を数冊読む機会があり、改めてアジア圏SFの豊かさを実感した。そこで中華圏SFに立ち返って手に取ったのが、立原氏が再び編集を手掛けたアンソロジー『宇宙の果ての本屋 現代中華SF傑作選』である。

収録作品は全15編。王晋康・韓松・何夕といったベテランをはじめ、梁清散・陳楸帆・宝樹など中堅・新人の作家が名を連ねる。SF、幻想譚、ホラー、青春小説と幅広いジャンルにまたがり、現代中華圏SFのポテンシャルの高さを存分に示している。以下、特に気に入った作品をいくつか紹介したい。

「生命のための詩と遠方」顧適
海洋汚染処理の国際コンペに提案され、海に放たれたマイクロロボット群が18年後に思わぬ展開を見せる物語。中華SFが得意とするユニークな未来テクノロジーのアイデアをポジティブに描いた好編だ。

「円環少女」宝樹
父親と二人暮らしの少女が自身の出生に疑問を持ち始める作品。ミステリアスな構成にぐいぐい引き込まれ、解題として用意されたSFアイデアに慄然とさせられる。邦訳作品も多い宝樹は、今後も注目の作家だ。

「女神のG」陳楸帆
先天的に子どもを産めない体の女性が獲得した、異能としか言いようのない特異体質を描く。ジェンダーと身体をテーマにしながら、セクシャル・ロックンロール・スターさながらのファナティックな展開が度肝を抜く。

「水星播種」王晋康
ナノロボットから生まれた金属生命体を水星に播種する事業を、気の遠くなるような時間スパンで描く。「極限環境生物」SFの枠に収まらず、孤独や宗教にまで言及した深みある傑作だ。

「死神の口づけ」譚楷
旧ソ連を舞台に、コロナ禍を予言するかのような炭疽菌パンデミックの恐怖を描く。1979年にロシアの生物兵器製造施設から炭疽菌が漏出した実際の事件を基にした、緊張感あふれる一作。登場人物がロシア人のみという点も異色だ。

「人生を盗んだ少女」昼温
ミラーニューロン現象にSF的ひねりを加え、他者の技術や知識を丸ごと習得できる能力を題材にした短編。貧困家庭の少女を主人公に据えることで、哀切な余韻が生まれている。本アンソロジー中、個人的に最も好きな作品。

「宇宙の果ての本屋」江波
悠久の時間をかけて銀河を彷徨う巨大図書館船を描く、雄大なSF作品。銀河の全知識を収集することを使命とするこの図書館は、ある種「自律型移動ファウンデーション」とも呼べるかもしれない。表題作にふさわしい、SFロマン溢れる掉尾の一編だ。

全体を通じて感じるのは、中華SFに顕著な「骨太でスケールの大きなアイデアをパワフルに展開する力」と、「登場人物の感情をエモーショナルに描く傾向」だ。後者は時に臭みとなり、人間関係の描写が古風に映ることもある。SF的には優れていても、洗練という点では物足りない作品が混じるのも事実だ。それでも、日本や欧米のSFと比べて際立つ個性こそが、中華SFを読む醍醐味ではないだろうか。