バレリーナ:The World of John Wick (監督:監督:レン・ワイズマン 2025年アメリカ映画)
闇社会からも恐れられる伝説の殺し屋ジョン・ウィック。そのジョン・ウィックを生み出した影の組織「ルスカ・ロマ」で殺しの腕を磨き、亡き父の復讐を誓う女がいた。彼女の名はイヴ・マカロ、またの名をバレリーナ。アナ・デ・アルマス主演の映画『バレリーナ』は、「ジョン・ウィック」シリーズのスピンオフ作品として生み出されたアクション作となる。
共演はノーマン・リーダス、さらにキアヌ・リーヴスらお馴染みのキャストも登場し、ファンにはたまらない布陣だ。監督は『ダイハード4.0』『アンダーワールド』のレン・ワイズマン。
「ジョン・ウィック」はとても好きなアクション映画シリーズだ。最初こそ殺しまくるだけの展開に面食らったが、回を重ねるごとに神話的とすら言える世界観と、東欧世界を彷彿させる重厚な美術、スタイリッシュ極まるアクションに圧倒されていった。そのスピンオフが製作されると聞いたときは実に嬉しかったが、実を言えば主演に抜擢されたアナ・デ・アルマスは少々甘さの感じる女優のように思えた。しかし、完成した映画でニヒルなキャラクターと激しいアクションを見事に演じきる彼女の姿に、その懸念は一瞬で吹き飛んだ。
「父の復讐を誓う女殺し屋」という『バレリーナ』の物語は、アクション映画としてはそれほど突出したものではないだろう。だがこの作品には「ジョン・ウィック」シリーズならではの魅力が深く刻まれている。血なまぐさい戦いを描きながらも、現実離れした世界観が観る者をダークファンタジー的な世界へと誘うのだ。「ルスカ・ロマ」や「コンチネンタル」といった、殺し屋たちの壮大な裏社会。今作では、殺し屋しか存在しない「殺し屋の町」という新たな舞台が登場し、その異様さを引き立てることとなる。
復讐に燃えるイヴが繰り広げる凄惨な殺戮は、この狂った空想世界をさらに鮮烈なものにしている。特に火炎放射器VS火炎放射器の戦闘シーンは、悪魔的なまでの美しさだった。そしてジョン・ウィックは、今作でも重要な存在として登場し、その圧倒的な存在感で物語を盛り上げる。「ジョン・ウィック」シリーズは、常軌を逸した荒唐無稽な世界を心ゆくまで味わい尽くす快感を与えてくれるが、この『バレリーナ』もまた、その系譜をしっかりと受け継いだ良作だった。