ドニーさんが製作・監督・主演した超絶武侠アクション『シャクラ』を観た!

シャクラ (監督:ドニー・イェン 2023年香港・中国映画)

宇宙最強の男・ドニーさんの最新作!

昨年映画『ジョン・ウィック:コンセクエンス』でまたしても宇宙一の強力さを見せつけたドニー・イェンが製作・監督・主演を務めたという武侠アクション『シャクラ』です。中国宋代(960-1279)を舞台に、殺人の濡れ衣を着せられ共同体を追われた男が、血みどろの戦いを繰り広げながら真相に迫ってゆく、という物語なんですね。主演は勿論ドニーさん、アクション監督を『レイジング・ファイア』、G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』の谷垣健治が努めます。原作は武侠小説最大の作家・金庸の長編小説『天竜八部』。

《物語》 宋代の中国。丐幇(かいほう)の幇主・喬峯(きょうほう/ドニー・イェン)は誰からも慕われる英雄的な存在だった。だがある日、何者かに副幇の馬が殺害され、その犯人に仕立て上げられてしまう。しかも自分が漢民族ではなく契丹人であるという出自まで明かされ丐幇を追放される。自らを陥れた人間を探し出し、さらに自身の出生の真実をつきとめるため喬峯は旅にでる。しかし、彼の行く手には更なる罠が仕掛けられていた!武林最強の技、「降龍十八掌」を使い、襲い来る刺客たちをなぎ倒す喬峯。果たして彼は黒幕を突き止め復讐を果たすことが出来るのか!?

【公式】映画『シャクラ』オフィシャルサイト

冴えに冴えまくったドニーさんのアクション!

『シャクラ』に登場する武術家はドニーさんに限らず誰もが皆超絶的な技の使い手です。強力な拳と強力な武器を操るだけではなく、「法力」を使った攻撃の応酬は『ドラゴンボール』かってェぐらいに超能力大戦状態、重力など存在しないかのように宙を舞い空を飛び、敵の攻撃をかわします。その「法力」を使って怪我すらも治してしまうんです。これにより映画の登場人物たちはあたかも神仙同士の戦いのような異次元殺法を見せつけてくれるんですね。

ドニーさんのアクションも冴えに冴えまくっています。「目にも止まらぬ動き」という言葉がありますが、本当に動きが目に追いつかないんです。CGIを駆使したハリウッドSFアクション映画が目に追いつかないぐらいチカチカした動きを見せることがありますが、ドニーさんの場合CGIなんか使わなくても人力で恐るべき高速アクションを見せつけるわけですから、ドニーさんの動きはもはやコンピューターの計算速度すら超えているのですよ(そんなこたァない)!?ドニーさんが一撃を加えると敵は有り得ないほど遠くに吹っ飛び、木造だろうが石造りだろうがどんな建物もガラガラバラバラとぶっ壊れてゆきます!この辺りの武侠アクションはもはや言うまでもないほどの楽しさです。

大長編小説の映画化作品

一方物語は、複数の主人公が登場する大長編小説の中からドニーさん演じる喬峯(きょうほう)のみにクローズアップし、さらにそれを2時間程度のドラマに仕立て上げたものですから、相当駆け足だったり唐突だったり説明不足に感じる部分があります。登場人物も多く、その関係も複雑で、さらに馴染みの薄い人名が登場しますから、集中して追い掛けないと途中で誰が誰やらになることになります。

また、原作ならではの単語が登場し、これも特に説明がありませんからよく分からないまま映画を観る羽目になります。例えばドニーさんがいた共同体の名前は「丐幇(かいほう)」となっていますが、後で調べるとこれは武侠小説における乞食によって構成される幇会のことで、独自の武術を身につけ、義俠の行いを旨とし、武林における勢力をなしている、ということになっているんですね(丐幇 - Wikipedia)。

とはいえ実の所、そういった部分は想像とフィーリングでなんとか乗り越えられちゃいます。些細な部分にまで理解は届きませんが、誰と誰が何のために戦っているかが分かれば大丈夫じゃないでしょうか。

恐るべき寂寞感に満ちた非情の世界

実は物語それ自体は多分に暗く重いものを孕んでいます。ドニーさんは何者かの謀略により、仲間を殺し、義父母を殺し、恩師を殺した嫌疑を掛けらるんです。それによりこれまで英雄としてもてはやされていた共同体を追われ命を狙われます。さらに自分の出生さえもが嘘であったことを知り、これまで仲間だった者たちと死を賭けて戦わなければならないんです。

これほどまでに徹底的に自らのアイデンティティを否定され、自らのいた世界をひっくり返され、その世界のどこにも居場所がなくなってしまうという、この孤独感、絶望感は並大抵のものではありません。アクションこそ華やかですがそこには虚無があり、悲痛な悲しみがあります。原作を掻い摘んだ物語とは言え、非情の世界としかいいようのない恐るべき寂寞感に満ちた物語が展開します。それでもドニーさんは愛、仁義、友情、家族愛という信念を持ち続けることを止めません。そのギリギリの想いが物語をドラマチックに盛り上げてゆくんですね。

中国俳優はよく知らないのですが、どの俳優も存在感があり強烈に記憶に残るキャラクターが並んでいました。また、古い時代の中国の歴史を垣間見せる荘厳な建築物、小道具、衣装など、ビジュアル面でも素晴らしい映画です。続編の存在も匂わせていますから、またいつかドニーさんの武侠アクションを見られる日が来るかもしれませんね。