トニー・ジャーが帰ってきた(ちょっとホームレス風味で)!〜タイ産格闘アクションムービー『マッハ!参』

■マッハ!参 <未> (監督:トニー・ジャーパンナー・リットグライ 2010年タイ映画)


やっと!やっと出た!トニー・ジャー主演タイ原産格闘アクション・ムービー『マッハ!参』!前作『弐』はオレが去年観た映画のベスト3に入れたほど面白く出来た映画だったが、この『参』は残念なことにDVDスルー。何故だ!?何故なんだ!?トニー・ジャーのゴツいブサ面がみんなそんなに嫌いか!?象だって出てくるしとっても楽しいのに!?格闘アクション・スターということではオレはドニーさんが大好きだけど、このトニーさんはもっと好きだ。むしろオレが格闘アクション・ムービーに開眼したのはこのトニーさんの『マッハ!!!!!!!』や『トム・ヤン・クン』のお陰だと言っていい。例えばドニーさんが鋭利な剃刀のようなアクションを見せてくれるとするなら、トニーさんは巨大ハンマーをぶん回すようなアクションを見せてくれる。洗練されたドニーさんに対する野蛮極まりないトニーさん。どっちが上ということはないが、「この技まともに入ったら死ぬよね!?」という本気さがトニーさんから目を離せない理由なのだ。

この『マッハ!参』は前作『マッハ!弐』の後編とも言うべき作品で、前作で尻切れトンボに終わってしまった物語がやっと語られることになる。それなのでこれから観られる方は是非『弐』を観てから御覧になっていただきたい(ちなみに1作目の『マッハ!』とは全然別個な独立したストーリー)。前作までの粗筋はこんな感じ:タイの歴史を遡ること600年あまり前まで存在したスコータイ王朝。主人公ティン(トニー・ジャー)は新王朝設立を企むアユタヤ王国の侵略により暗殺された国王のただ一人の息子だった。からくも生き残ったティンは、彼を救った山賊団《ガルーダの翼峰》から武術特訓を受け、父母を殺した逆賊たちに復讐を誓う。数年後、強力な戦士と化したティンは、復讐のチャンスに巡り合うが、あと一歩のところで返り討ちに遭い捕らえられてしまう。そしてこの『参』では囚われたティンの熾烈な拷問シーンから始まる。そしてあわや処刑という時に奇跡的に助けられるものの、瀕死の重傷を負ったティンは復讐の夢を打ち砕かれ絶望に打ちひしがれていた。

この『マッハ!参』の見所は『弐』に引き続きタイ中世のエキゾチズム溢れる異邦の文化だろう。東南アジア独特の石造りの建造物、むせかえるようなジャングル、ポリネシア系の顔つきの人々、その彼らが身にまとう民族衣装、そして彼らの暮らしぶり。欧米映画では決して見ることはできないし、中国・香港映画とも全く異質なその文化背景が、まるで馴染みのないオレのような者にとっては、まさにファンタジー映画の舞台のようにさえ見えてしまうのだ。さらにこのタイ中世篇『マッハ!』シリーズでは、呪術的な側面が多大にクローズアップされ、ファンタジー的な要素がなおさら強調されているのだ。あたかもそれはロバート・E・ハワードが原作を書きA・シュワルツェネッガーで映画化もされた『コナン・ザ・グレート』の如き暴力と魔術が渦巻くヒロイック・ファンタジーの様相を呈している。そしてヒロイック・ファンタジーが《剣と魔法の物語》と呼ばれるならこの『マッハ!』タイ中世篇はまさに《"拳"と魔法の物語》ということが出来るだろう。

さてこの『参』、ハイパーテンションなアクションに継ぐアクションの応酬で飛ばしまくった『弐』に比べ、随分とそのトーンを落とす。映画の中盤までは満身創痍になったティンのリハビリと新たな修行、そして仏門の僧との対話に費やされるのだ。そもそも今回のトニーさん、もうすっかりボロボロの上今までも汚かったのになおいっそう小汚くなって、見た目がほとんどホームレス状態なのが悲しい。ただ、トーンは落ちているが、決して内容が薄いという意味では無く、最後の戦いへ向けてより収斂したストーリー展開を見せるのだ。言ってみれば『キルビル1』に対する『キルビル2』のようなものだと思ってもらえばいい。いわば『弐』が【動】ならこの『参』は【静】だ。前作と比べアクションの量が少ないので物足りなく感じる部分もあるが、逆に前作よりも静かな情念が徐々に滾ってゆく様が味わい深い。そして多くのタイ映画に横溢する仏教への深い信仰心が見え隠れし、それがキリスト教圏における神と悪魔の戦いの如く、仏の教えを持つものと邪悪へと身を堕した者との最終戦争へとなだれ込んでゆくのだ。特に映画クライマックスでは、その宗教的精神性によるあっと驚く展開が用意される。ただ、人によっては「なんじゃこりゃ?」と思ってしまう難もあることはあるのだが…。

主人公ティンがこの映画で操るのはタイの伝統舞踊と武術を合わせた拳【ナーターユット】(日本語で適当に意訳すると【仏像拳】?)、これは監督主演のトニー・ジャーがこの映画のために編み出した武術であり、これまでのトニー・ジャー映画の主軸であったムエタイは使われていない。タイ伝統舞踊の動きをもとにしているだけあって独特の美しい型であり、ムエタイの直線的な有無を言わせぬ暴力性と比べるとやはり迫力不足であるのは否めないが、トニー・ジャーはこの【ナーターユット】を使うことによって今までの彼の映画とは一線を画した新しい戦いの映像を表出させたかったのだろう。ただ、【ナーターユット】であるということ以前に、トニー・ジャーの動きが若干もたついて感じたのは気のせいだろうか。そして邪悪の総本山を今回務めるのは『七人のマッハ!!!!!!!』『ロケットマン!』主演のダン・チューポン。彼の演ずる不気味なメイクを施した魔人【鴉男】は、その異様さと超自然的な雰囲気で、今回ちょっぴり大人しめだったトニー・ジャーの替わりに画面で大暴れするのだ。


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