カレル・チャペックの『山椒魚戦争』を読んだ

山椒魚戦争/カレル・チャペック(著)、樹下節(翻訳)

山椒魚戦争

一商船の船長が、インドネシア方面の海中で、山椒魚に似た奇妙な動物を発見する。彼は、この動物が人になれるうえに利口なことを知って、真珠採取に利用することを思いつく。そして、この仕事の企業化を、ある実業家にもちかける。山椒魚は、まず単純な海中作業に利用されるが、やがて、人間はさまざまな技術を教え、言葉までさずけて、彼らを高度な仕事につけはじめる。知識と技術を獲得した山椒魚はいろいろな権利を主張しはじめる。そして……。痛烈なSF的諷刺によって、政治的・経済的・技術的・文化的な激動の時代を皮肉ってみせたチェコの奇才チャペックの代表作。

カレル・チャペックといえば1920年に書かれた戯曲『ロボット』(R.U.R.)において、 世界で初めて「ロボット」という言葉を使ったチェコの作家である。そのチャペックの、『ロボット』と並ぶ古典SFの傑作『山椒魚戦争』を読んでみた。1936年に書かれた『山椒魚戦争』は、南洋で知能のある山椒魚そっくりの生物が発見されることから始まる。その生物は従順な上に人間の言葉を容易く覚え、人間たちは彼らを様々な仕事に就かせて使役してゆくが、やがて数の増えてきた彼らは権利を主張し始める、といった物語だ。なおこの物語に登場する新生物は山椒魚ではないが、とりあえず「山椒魚」と表記しておく。

粗筋からの印象ではいわゆる黒人奴隷や人種間差別を暗喩した社会風刺的な寓話という括り方も出来るだろう。また、カレル・チャペックの『ロボット』と同様、「使役される側の逆襲」をアイロニカルに描いた文明批判的な作品だという見方もできる。とは言いつつ『ロボット』読んでないんですけど!読んでなくて知った口訊くのはよくありませんね!しかしこの『山椒魚戦争』、実際読んでみると、「山椒魚」の生態が細部にわたって非常に詳しく書かれており、それはやはり人間とは違う別の生き物、でしかない。そういった部分から、この物語が社会風刺や文明批判的な作品というよりは「人類とは別の知的生命体とのファーストコンタクト」と単純にとらえて読んでもいいのではないかとも思えた。

クライマックスでは人類と人類に好き放題にされていた「山椒魚」との間で戦闘が起こるのだが、「山椒魚」は海生であることを生かし海の側から人類を追いこんでゆく。この辺の「異種間戦争」の在り方もエキサイティングだったし、「山椒魚」にとっての領土拡大は即ち海の面積を大きくすることなので、次第に陸地が削られていく地球といった展開も斬新に感じた。例えばこの物語を現代にリライトするとするなら「海に住む知的生命とのファーストコンタクト」としてどういった形になるだろうか、と想像してみるのも楽しかった。なお翻訳は数多く出ているが「グーテンベルク21」という出版社のKindle版で読んだ。

山椒魚戦争 (岩波文庫)

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山椒魚戦争

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サンショウウオ戦争

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山椒魚戦争 (地球人ライブラリー)

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