ピーター・ワッツのSF中編『6600万年の革命』を読んだ

6600万年の革命/ピーター・ワッツ (著)、緒賀 岳志 (イラスト)、渡邊 利道 (その他)、嶋田 洋一 (翻訳)

6600万年の革命 (創元SF文庫)

地球を出発してから6500万年。恒星船〈エリオフォラ〉はもはや故郷の存続も定かではないまま、銀河系にワームホールゲート網を構築する任務を続けていた。乗組員サンデイは任務に忠実だったが、あるきっかけで極秘の叛乱計画に加わることを決意する。それは数千年に一度だけしか冷凍睡眠から目覚めない彼女たちと、船の全機能を制御するAIの、百万年にも及ぶ攻防だった。星雲賞受賞『ブラインドサイト』の著者が放つ傑作ハードSF。

『6600万年の革命』は『巨星 ピータ・ワッツ傑作集』に収められた「島」「ホットショット」「巨星」と同じ世界観に属する「サンフラワー・サイクル」というシリーズの1作となる中編だ。

「サンフラワー・サイクル」の物語は大枠はこうだ。22世紀、銀河系全体にワームホール網を構築する「ディアスポラ計画」が発動、複数の恒星間宇宙船が打ち上げられる。そのうちの一隻であり物語の舞台となる〈エリオフォア〉は低レベルAI「チンプ」が管理する。低レベルなのはシンギュラリティを起こさないためだ。これを補う形で3万人の人間が乗り込み、冷凍睡眠しながら複雑な問題が起こった時のみ交代で覚醒させられる。こうして〈エリオフォア〉は膨大な時間を掛けながら銀河を経巡り、いつしか地球との連絡も途絶えていた。

『6600万年の革命』は〈エリオフォア〉打ち上げから6500万年経った時期の物語だ。この間乗組員たちは千年に一度交代で覚醒し、6500万年のうち一人一人は10年足らずしか歳を取っていない。しかし意義も目的も見失われた事業に乗組員たちは疑問を持ち、遂に反旗を翻した、というのがこの物語となる。6500万年経た後から始まる物語のタイトルに「6600万年の革命」と付けられているのかというと、この叛乱自体が100万年のスパンを持ったものだからなのだ。この辺りの時間のすっ飛ばし方が異様さを生んでいる物語でもある。

設定が独特なので長々と説明してしまったが、この小説自体が280ページ程度の中編でありつつ、物語が「AIへの叛乱」というシンプルなものである事から、「テーマの割にはちょっと長いし、ちょっと長い割にはカタルシスが薄く、結果的に間延びしたような印象の作品」として読めてしまった。その設定やテクノロジーの書き込みはさすがハードSFといった面白さがあるが、人間描写とそのドラマが弱く、ピーター・ワッツが中心的テーマとする「自意識と自由意志」に肉薄するのには密度が希釈されてしまっている。この作品自体を3分の2ぐらいの長さにするか、または「サンフラワー・サイクル・シリーズ」として1冊にまとめて一気に読ませた方が説得力があったのではないか。

とは言いつつ、この『6600万年の革命』にはもう一篇、同じ〈エリオフォア〉が登場する短編『ヒッチハイカー』が収録されている。時制は『6600万年の革命』のさらに数百万年後だろう。こちらは短いながらピリッと締まったSFスリラーだが、『6600万年の革命』と相補的であるからこそさらに味わい深く、不気味な余韻を残した作品となっている。

6600万年の革命 (創元SF文庫)
 
巨星 ピーター・ワッツ傑作選 (創元SF文庫)