テッド・チャンの『息吹』読んどいた。

息吹/テッド チャン(著)、大森 望 (翻訳)

息吹

あなたの人生の物語」を映画化した「メッセージ」で、世界的にブレイクしたテッド・チャン。第一短篇集『あなたの人生の物語』から17年ぶりの刊行となる最新作品集。人間がひとりも出てこない世界、その世界の秘密を探求する科学者の、驚異の物語を描く表題作「息吹」(ヒューゴー賞ローカス賞、英国SF協会賞、SFマガジン読者賞受賞)、『千夜一夜物語』の枠組みを使い、科学的にあり得るタイムトラベルを描いた「商人と錬金術師の門」(ヒューゴー賞ネビュラ賞星雲賞受賞)、「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」(ヒューゴー賞ローカス賞星雲賞受賞)をはじめ、タイムトラベル、AIの未来、量子論、自由意志、創造説など、科学・思想・文学の最新の知見を取り入れた珠玉の9篇を収録。

SF界においてはそのどの作品も最高の評価をもって迎えられ知らない者のいないであろう人気作家テッド・チャンの第2短編集『息吹』を読んだ。……とは言いつつ実はオレ、この作家が苦手だったのだ。第1短編集『あなたの人生の物語』も手に取っていたのだが巻頭1作目からまるでノレなかった。文体がヌルヌルして気持ち悪いのである。こんなことを言う人間は多分世界でもオレだけだと思うのだが、なにしろ入っていけなった。

その後アンソロジーに収録された短編を幾つか読んだ時もやはり「なんだか受け付けない」作家だった。しかしつい最近『2010年代海外SF傑作選』収録の『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』を読んだとき、そのあまりの面白さに舌を巻いてしまった。この時オレはやっとテッド・チャンがなぜこうも高い評価を受ける作家なのかやっと分かった気がした。で、今度こそちゃんと読んでやろうとこの『息吹』を手にした訳だが、結局「やっぱり合わない作家だったのは確かだな」という結論だった。テッド・チャンの文体を「ヌルヌル」と書いたが、これはつまり「何一つ引っ掛かる部分の無いするする読める非常に抑制され平易かつ的確な文章によって描かれる物語」だということだ。この人の文章は非常に高い論理性を持っているので、多分英語の苦手なオレでも原文ですらすら読めそうな気がするほどだ。

「なんでそれで文句が出るの?」と思われるかもしれないが、なんだろう、「エモーション」を感じないというか「イキらない」というか「逸脱しない」というか「成熟し過ぎている」というか、完璧に近いからこそ面白味を感じないのだ。文章や物語の描き方からは相当のインテリジェンスを感じる、インテリ揃いのSF作家の中でもこの人の知性の在り方、その演繹の仕方はおそらく群を抜いており、だからこそこれほど高評価の作品を描けるのであろうが、インテリならではのモラリズムや公正さ、その「破綻の無さ」が頭がおかしいぐらいが丁度いいと思っているオレには合わないということなのだ。

あとテッド・チャン、なんだか寓話的な物語が多過ぎるんじゃないか。寓話が悪いというわけではないがどんな物語でも寓話に落とし込んでしまう部分にやはりどうも人間臭さを感じないのだ。とまあグダグダ書いたがこれはもちろん作者の問題ではなく読み手のオレの問題である。

息吹

息吹