学園ホラーコメディ映画『スローターハウス・ルールズ』を観た

■スローターハウス・ルールズ (監督 クリスピアン・ミルズ 2018年イギリス/アメリカ/カナダ映画

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オレはサイモン・ペッグが結構割と好きである。『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ホット・ファズ』あたりの有名作、『ミッション・インポッシブル』や『スタートレック』などの人気シリーズは言うに及ばず、TVシリーズ『SPACED/俺たちルームシェアリング』を始めとする地味であまり知られていない主演作品もチマチマ探して観ているぐらいだ。ペッグさんはイギリス労働者階級でオタク野郎、要するに呑気なクズを演じさせるとピカイチで、同じ呑気なクズとして親近感が湧くのである。

そんなペッグさんの未公開映画がNetflixで放送される、というから楽しみにしていた。しかも盟友ニック・フロストとの共演だというからこれは目が離せない。タイトルは『スローターハウス・ルールズ』、なんだかカート・ヴォネガットの小説『スローターハウス5』とジョン・アーヴィングの小説『サイダーハウス・ルール』を足したようなタイトルじゃないか(両方映画化作品あり)。ポストモダン小説の名作として名高い両作のタイトルからかっぱらってきたのだとしたらペッグさんもなかなか趣味がいい。

製作はペッグさんとニック・フロストが興した映画会社「Stolen Picture」。これが第1作目らしい。監督のクリスピアン・ミルズって誰?と思ったら、ペッグさん主演映画『変態小説家』(なんちゅうタイトル!)を監督した人じゃないか。あれは変な映画だったなあ。

お話はイギリスの名門寄宿学校スローターハウス学園に入学した主人公生徒が、いけ好かない学長や上級生にうんざりしつつ友情や恋を育むけれど、その学園にはなにやら怪しい影が迫っていた……というもの。その「怪しい影」の正体というのが凶暴なモンスターで、後半は学園大パニック!となる、という感じ。いわば『ハリー・ポッター』にロバート・ロドリゲスのほうの『パラサイト』を足したような雰囲気だろうか。一応ペッグさんは脇役で、とても情けない教師役、一方フロストさんは学園の近所でキャンプするニューエイジなヤク中親父の役。ああ、両方ともハマリ役だ……。

さて前半で目を引くのはスローターハウス学園のイヤッたらしい上級生たちやファシズムっぽい校則の狂いまくった雰囲気。そもそも「スローターハウス」って「屠殺場」って意味で、そんな名前の学校自体そもそもおかしいだろ!?こんな具合に全体的に陰気な皮肉が散りばめられているのもこの作品の特徴だ。このブラックさにノレるかノレないかで観ている人の評価も変わって来るんじゃないかな。オレ的には全然OKだけどね!

スクールカーストってのはアメリカのドラマや映画でも目にする事があるけど、これがイギリスともなるとシュールなぐらい頭がおかしくて、さらに頽廃の匂いがしてくる。さすが歴史ある大英帝国だけあって狂気もたっぷりと熟成されているのだ。あと「親戚に戦争犯罪者がいる」ってパワーワードだよなあ。こんだけ狂っていたら元ピンク・フロイドロジャー・ウォーターズだって『アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール』なんて曲書いちゃうよなあ。この上級生たちの狂気は後半も「ラテン語クラブの変態パーティー」という形でしっかり花開いております。

一方主人公少年少女の友情や恋の描写はまあまあ、退屈はしないけどグッと来るほどのこともなくて、「普通」に流れちゃった部分でドラマ的な弱さはあるかもしれない。まあオレ、ガキンチョにそもそも興味無いし、ペッグさんとフロストさんが見られたからそれでいいや。そして後半のモンスターホラー展開、肉体破壊がそこそこ描写され、イヤ~ンなグロ趣味を堪能させてくれます。結局なんだったんだアレ?とは思いますが、いや、気にしない気にしない。全体的にペッグさんの大好きそうな悪趣味とブラックユーモアが満開で、興行的には失敗だったみたいだけど、ペッグさん楽しんで作ったんだろうなあ。ええ、オレも十分楽しませていただきました。