前を見て、笑顔で胸張って!〜映画『カムバック!』

■カムバック! (監督:ジェームス・グリフィス 2014年イギリス映画)


肥満度100%のメタボな中年男がサルサ好きの女性に恋をして、彼女のハートを射止めるために自分もサルサを踊っちゃう!?というコメディ映画です。主演のメタボ中年を『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』『宇宙人ポール』のニック・フロストが演じ、全身の脂肪をプルプルいわせながらサルサに挑戦しております。

イギリス中に"サンダーキャッツ"の名を轟かせた天才サルサダンサーのブルースと妹のサム。しかし全国大会制覇を目前に起きた事件がトラウマとなり、ブルースはサルサを封印したのだった。25年後、旋盤設計士として働くブルース(ニック・フロスト)は、立派なメタボ男に激変していた。押しの弱い性格のためか結婚はおろか、彼女なし。地味に暮らす彼に恋の稲妻が落ちた!お相手はアメリカから赴任してきた上司のジュリア(ラシダ・ジョーンズ)。彼女に一目惚れしたイケメンの同僚、ドリュー(クリス・オダウド)も加わり、恋の火花散る三角関係が始まった。メタボ男が情熱のサルサを踊る時、人生のミラクルが起きた!(公式HPより)

えーっと最初に書いちゃうと、ニック・フロスト、残念なことにあんまり踊れてません。手つきやステップには練習の後が見られますが、なにしろ体が硬いようで、ダンス・シーンでは単に手足をバタバタさせているようにしか見えません。一応ペアを組む女性が派手に踊ってくれているので、上手にリードを取っているように見せていますが、「かつての天才少年」の片鱗もないし、後半のダンスコンテストでも、なぜにこいつが予選を勝ち進んでゆくのか…とちょっと疑問に思えてしまいます。多分アイディアの段階では「ぶくぶくのおデブさんが華麗にダンスを踊っちゃう!?」という落差を可笑しさに持って行きたかったのでしょうが、確かにそんな落差は楽しかったにしろ、華麗に踊ることに関してはどうも無理があったようです。そういった部分では、いわゆるダンス映画としてのカタルシスはあまり望まないで観たほうがいいでしょう。

しかしこの映画は、いつもはサイモン・ペッグとペアで取り扱われているニックさんの、そのピンの魅力を堪能するにはもってこいの作品として仕上がっているんです。ニックさんがピンで出演している作品はあることはあるんですが、主演となるとこの作品が初めてなんじゃないのかな(TVシリーズ『Danger! 50,000 volts』では主演を務めた模様)。この作品でのニックさん、なにしろチャーミングなんですよ。おデブさんならではの、ちょっと引いた感じの奥ゆかしさが、可愛らしくて堪らないんです。そしてよく見ると、いつもはアホな役回りばかりのニックさんが、実はとても知的な目つきをしていることに気付かされます。物語の中ではいつも紳士だし、繊細だし、例えダンスの腕はイマイチでも、きっとデブ専女子(あるいは男子)の心をときめかせまくっちゃうんじゃないでしょうか。そもそもこの作品、ニックさんが主演のみならず原案・製作総指揮を務めていて、きっとその製作段階で「ちょっとイケてる俺を演出しっちゃおっかなー」なーんて思ったに違いありません。

また、物語に登場する人々が濃い目で楽しかったりします。ニックさん演じるブルースの友人たちは「こいつら本当に役者なのか?」と思ってしまうほどイケてない連中ばかりですが、ブルースへの友情は確固たるものだったし、ブルースと関わるゲイな中東男子の気さくな優しさは、やはり暖かな友情を感じさせてくれました。ブルースのダンス教師ロン役で、最近では『ヘラクレス』にも出演しているイアン・マクシェーンは、実に黒光りしたどこかワルっぽい雰囲気が渋かったですね。一方ブルースの恋敵となる同僚ドリューは、しょっちゅう連発する笑えない下ネタと下司ぶりが実にイギリス人らしくもあり、これも敵役として上々でしたね。まああと女優に華が無いのもイギリスっぽいといえばイギリスっぽいですが。

そしてこの映画、サルサ・ダンスをテーマにしているだけあって、サルサ・ミュージックを映画館のサウンド・システムでとことん堪能できるのがいいんですね。実の所、自分はサルサに造詣が深いわけでは全くありませんが、劇中流れるサルサの音楽がとても歯切れよく再生されていて、「いい音だなー」と感心しておりました。作品自体はイギリス映画らしいこじんまりしたもので、コメディとは言ってもドタバタ喜劇みたいな馬鹿馬鹿しい笑いを誘う作品では決して無いんですが、音楽映画の楽しさや幸福感はきちんと兼ね備えており、個人的には十分満足できた作品でした。

http://www.youtube.com/watch?v=owbLtB8ZhgA:movie:W620

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