《悪の秘密組織》ってことでメシ3杯は行ける映画『007 スペクター』

■007 スペクター (監督:サム・メンデス 2015年イギリス映画)

■新生ボンド・シリーズ第4弾

007シリーズ24作目、ダニエル・クレイグ新生ボンド・シリーズ4作目、『007 スペクター』であります。
いやー「12月4日公開かあ、どうっしようかなあ」とか思ってたら、その公開日以前からツイッターの映画好き界隈の皆さんが「007観た!007観た!」とかまびすしいではありませんか。先行公開だったんでしょうが、なんだよこんなにみんな007観に行ってんのかよ…君たち007好き過ぎだよ…。そういうオレは今回は観ても観なくてもどっちでもいいやあ、と思ってたんですが、まあスターウォーズ新作までの繋ぎってことでやっぱり観に行くことにしたんですがね。
実はオレ、そもそも「ダニエル・クレイグ新生ボンド・シリーズ」ってそんなに思い入れないんですよ。一応全部観ましたが、『カジノロワイヤル』の時から「なんか今度のボンド・ストーリーは辛気臭い上に世知辛くてノレねえなあ」と思ってたんですね。それまでのボンドが「英国諜報部員というよりも飲む打つ買うの三拍子揃った親父スーパーヒーロー」だったのを、リアルな路線に引き戻したかったのはよく分かるんですが、なんかわくわくしないんですね。だったらオレ、オースティン・パワーズかジョニー・イングリッシュでいいやあ、と思ってましたもん。
その程度の興味しかありませんでしたから不真面目にしか観て無くてね。だからこれまでのクレイグ・ボンド3作もあんまり頭に残ってなくて、しかもこれ続き物の体裁取ってるもんですから、話が時々わかんなくなっちゃってね…。そんなオレが観た『スペクター』なんですが、あれ?これ今までで一番面白かったんじゃない?今回の『スペクター』、映画の尺が2時間半とかあって、「なげえよ!」というのがオレが一番最初に読んだ『スペクター』評だったんですが、いや2時間半ぐらいならインド映画で鍛えられてるからオレは屁とも思わないよ?むしろ2時間半もボケッと観ていられる有意義な作品だったよ?

■なんとなく馬鹿馬鹿しいのがいい今回の007

ストーリーとかあえて紹介しませんが、今回の007、なんとなく馬鹿馬鹿しいんですよ。クレイグ・ボンドの「辛気臭い上に世知辛いリアル路線」が、旧007の「飲む打つ買うの三拍子揃った親父スーパーヒーロー」に結構接近しているんですね。まずアクションが、「手に汗握る熾烈な戦いから生まれる緊迫感」というよりも「オッサン無茶しなはってますなあ」という有り得ないものと化しているんですね。冒頭のヘリコプター・シーンなんて「007が操縦士ボコってるもんだからヘリコプターが宙返りしてるわ」と半分笑って観てましたよ。極めつけは翼もげた飛行機で地べた滑走するって、あんたなにやってんだよ007!
そして「会った女はその日のうちにコマす節操の無い下半身」ぶりが旧007ぽくてよかったわあ。これまでのクレイグ・ボンドにもあったのかもしれないけど(なにしろ忘れてる)、旦那の葬式帰りの熟女コマすとは節操の無さに磨きが掛かってますよね。あと熊みたいなガタイした脳筋バカの敵とか出てきて『ロシアより愛をこめて』を再現していたのはわくわくさせられたわあ。次作ではスチール入れ歯の敵役登場お願いね(はあと)。それとかボンド・カーがカスだった、というのはこれまでの007パロディ映画への返歌だった、という観方でよろしいでしょうか。

■スペクターはショッカーだった

なにより最も馬鹿馬鹿しかったのは、今回の物語のタイトルであり最大の敵でもある《悪の秘密組織スペクター》の存在ですね!いやあなた、《悪の秘密組織》ですよ?この言葉だけでメシ3杯行けるよな!ホントのリアルの世界ではさ、ISがどうとかシリア難民がこうとか、にっちもさっちもいかないくらいシリアスなことになってるけど、映画の世界では《悪の秘密組織》!やっぱこうでなくちゃ。もう夢のある言葉だよね《悪の秘密組織》。で、これが最初は物々しく描かれるんだけど、段々「これって結局ショッカーじゃん」と思えてきて、その味わい深さに拍車が掛かるんですよ。まあ映画の中で「俺たちゃ《悪の秘密組織》だぜ!ガッハッハ!」なんて言ってるわけじゃありませんけどね!
悪の親玉役であるクリストフ・ヴァルツがめっちゃ勿体ぶって出て来るところから心ときめかされましたが、これが段々情けなく見えてくるうえに意外と弱い、この辺なんかも萌えポイント高いですよ。なんか勿体付けて出てきたわりに意外と弱かったスター・ウォーズ銀河帝国皇帝ダース・シディアスみたいじゃん!スペクター基地の組織員もなんだかストーム・トゥルーパーみたいな没個性な連中だったしね!それにモフモフの白猫飼ってたりとか結構オトメな性格してんじゃねーのコイツ?クリストフ・ヴァルツの存在感は今回も素晴らしかったですが、ただひとつ、ハゲ頭で出て来なかったことに役作りの甘さを感じて残念でした。あと次作ではミニ・ミー登場希望。

■次作への期待!?

面白可笑しく書いちゃいましたが、これはこの作品が突っ込み所満載とか言いたいわけでは全く無く、むしろ物語作りに余裕が感じられる分、こっちも余裕かまして観られるということなんですよ。リアル路線とか笑えないんだもん。そんなわけで大変楽しく観ることのできた『007 スペクター』だったんですが、ただどうしてもいただけない部分があったのも確かで。今回の007、2時間半もあるのに歌も踊りも暴力警官も出て来ないんですよ?世界各地で活躍するジェームス・ボンドですが、次回作ではそろそろインドを舞台にしてですね、邪神を崇める暗黒宗教組織とかと戦ってほしいですね。もちろんクライマックスはトロッコ同士のチェイス・シーンですよ!監督はローヒト・シェッティ、ボンド・ガールはディーピカー様で!
http://www.youtube.com/watch?v=eAQBc3affUU:movie:W620