『007 スカイフォール』は007版『ダークナイト』だった!

■007 スカイフォール (監督:サム・メンデス 2012年イギリス・アメリカ映画)


ダニエル・クレイグ主演の007リブート・シリーズ第3弾『007 スカイフォール』を観てきました。いやあ「スカイフォール」ってなんのことかと思ったら、今回の007、ボンドとMが空から落ちてきた使徒を食い止めるっていう話だったんですね!…というのは冗談ですが、実は内容は意外と間違っていません。今回のお話の中心となるのはMI6の局長であるMなんですね。
物語はNATO工作員の情報が入ったハードディスクが謎の組織に奪われるという事件から始まります。オープニングではそのハードディスクを巡りボンドと敵との熾烈な追跡劇が描かれますが、もうここだけで映画1本分のアクションが詰まっていて見所満載です。しかし作戦遂行のためにMから命をないがしろにされ、ボンドは暫く死んだことにされたまま身を隠してふてくされています。ふてくされていてもちゃんと美女とコトはおこなっていたりするマメなボンドです。
奪われたハードディスクのせいでNATO職員の粛清が始まり、MI6のビルまでもがテロに遭って大騒ぎ。Mは政府に責任追及されててんやわんや、こりゃやっぱオレの出番だ、とばかりふてくされていたボンドはMI6にやっと顔を出しますが、復帰試験を受けた所結構グダグダ、落第すれすれで復職します。で、あれやこれやがあってハードディスクを奪った犯人というのがかつてスパイとしてMI6に務め、しかし任務の最中Mに切り捨てられた男・シルヴァが、Mを逆恨みして復讐を誓い、数々の事件を起こしていた、というのがわかってきます。そしてシルヴァはMの命を狙ってMI6のあるロンドンへと潜入し、ボンドがそれを迎え撃つが…というものなんですね。
う〜ん、はっきり言ってこれ、【内輪もめ】の話じゃないですか!
とはいえ、これまでの007リブート・シリーズの中では格段に面白く作ってあります。実はオレ、このリブート版、ちょっと下火になっていた007モノを盛り上げていたとは思うけど、でもそれほど面白かった、というわけでもないんですよ。007というのが絵空事のスパイ・アクションとして面白く見られたのは欧米の政治的立場がまだ真っ当なものと思われていた時代までで、その後シリーズが迷走を見せるのは、世界の政局が何が正しくて何が間違ってるのか、白黒はっきり分かち難くなってきている、という背景があったからなんですよね。で、英国諜報部員でしかないボンドがスーパーヒーローみたいに世界を救う、みたいなこれまでのお話を一回チャラにして「女王陛下の007」としてリブートしたのがこの新シリーズなんですが、リアルな世界情勢に合わせた分、今度は以前のような奇想天外さや色気が無くなってしまってるんですよね。
結局007ってなんだったのか、というと、ざっくり言って「飲む・打つ・買う」をインターナショナルに展開する男の夢を実現したもんじゃないですか。まあボンドはモテモテですから「買う」必要はないんですが、要するに「いい酒飲んで博打も巧くていつもいい女抱いてさらに熾烈な仕事もスイスイやり遂げる」っていう、下世話にいうと昔の深夜番組にあった「11PM」の世界を地で行っているようなマチズモの権化であったわけですよ。しかし昨今ではそういうマチズモっていうのは『エクスペンダブルズ』みたいな自嘲とセルフパロディでしか生き残っていけなくて、まともにやっちゃうと失笑を買う、そういった部分で007を昔みたいにやるのは難しくなってきた。
で、今回のリブート版ということなんですけど、しかし出てくる敵っていうのはマネーロンダリングや天然資源の利権獲得にあくせくするようなリアルではあるけどなんだかセコイ連中でしかなくなってしまった。そういった部分で007映画の奇想天外さというのは無くなってしまって、逆にそれは『ミッション・インポッシブル』あたりにお株を奪われる形になってしまった、ということなんですよね。そんな訳でこれまでのリブート版007ってあんまり高く評価してなったりするんですよね。そんな中今回の『スカイフォール』、内輪もめの話とはいえ、政治的にどうとかいう背景が存在せず敵味方がはっきりしている、動機が私怨ということで分かりやすい、さらにその敵というのがこれまでで一番個性豊かで敵としての貫録がある、といった所が映画として結構成功している理由なんではないでしょうかね。
それと今回の『スカイフォール』って多分にクリストファー・ノーランの『ダークナイト』を意識した作りになっているんですね。まずなにしろ敵役であるシルヴァのどことなく狂気じみたおどけた様子や、演じるハビエル・バルデム染めた金髪の不自然さジョーカーっぽいってところですかね。シルヴァの口が実は大変なことになっている、なんていうのも実にジョーカーしてるじゃないですか。シルヴァが全ての計画を先の先まで読んで神の如く完璧に行い、さらには一回わざと捕まって、それにより周囲に混乱を呼ぶ、なんていう所も『ダークナイト』ですよね。そしてボンドとシルヴァの関係というのは、バットマンジョーカーが善と悪のコインの裏表であったように、MI6職員として忠誠を誓ったものと裏切ったものという、やはりコインの裏表の関係なんですよね。このMI6への忠誠というのも、一度命をないがしろにされたことで揺らいでいる、という部分が、善と悪の境目の分からなくなってしまっていたバットマンと共通しているんですよね。まあ『ダークナイト』並の傑作、というほどでは無いにしろ、そういった部分で面白い映画だなあ、と思いましたね。

007/スカイフォール オリジナル・サウンドトラック

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007 50周年記念トランプ限定版

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