NYに住むインド人一家を描くメロドラマ〜映画『たとえ明日が来なくとも』【SRK特集その1】

■たとえ明日が来なくとも (監督:ニキル・アドヴァーニー 2003年インド映画)


シャー・ルク・カーン主演によりオール・ニューヨーク・ロケで撮影された2003年のインド映画です。インドではこの年興収第2位を記録する大ヒット作となりました。共演はヒロインにプリティ・ジンター、その友人にサイフ・アリー・カーン。監督は『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』のニキル・アドヴァーニー、脚本を『家族の四季』の人気監督カラン・ジョーハルが担当しています。なおこの作品は2008年に日本公開され日本語版DVDも発売されましたが現在は廃盤となっており、自分はツタヤのレンタルで見つけて視聴しました。

ニューヨークに住むナイナー(プリティ・ジンター)は諍いの絶えない家族のせいかいつも暗い顔をして毎日を過ごしていました。そんなある日、隣家に陽気な青年アマン(シャー・ルク・カーン)が越してきます。なにかとお節介焼きのアマンはナイナーの家に出入りし、そのうちすっかり家族の人気者になってしまいます。アマンはナイナーにもちょっかいを出してきますが、彼女は素直に彼を受け入れることができず、MBAコースの同級生ローヒト(サイフ・アリー・カーン)をボーイフレンドに仕立て上げ、アマンには興味がないことをアピールしようとします。しかしそれは実は、アマンを愛する気持ちの裏返しでした。一方アマンもナイナーを愛し始めていましたが、彼は明かすことのできない重大な秘密を持っていたのでした。

最初に書いちゃうとこの『たとえ明日が来なくとも』、もう砂糖菓子みたいにベッタベタに大甘のメロドラマです。186分の長尺の中に笑いあり涙あり、恋と友情と家族の絆、歌と踊り大盤振る舞いという、実にインド映画らしい大娯楽作なんですが、後半からはこれでもかこれでもかと卑怯なぐらい泣かせの演出が入りまくり、もうメロメロにメロなメロドラマへと化してゆくんですね。アマンとローヒトの間で揺れに揺れるナイナーの心、といった三角関係が物語の基本なんですが、アマンはナイナーを愛しながらも彼女をローヒトとくっつけようとするんです。それはなぜ?というのがこの物語の核心でありメロドラマたる所以であり、そして『たとえ明日が来なくとも』というタイトルの理由となるところなんですが、特にここではネタバレは避けておきます。

物語だけ取り出してみるとメロドラマ展開にやり過ぎな部分を感じますし、個人的にもあまり得意ではないのですが、この作品では憎らしいぐらいうんざりさせられる一歩手前の部分で寸止めしているんですね。それはひとえに主人公であるアマンのキャラクターに負うものであり、それは当然演じるSRKの巧さと魅力によるものと感じました。前半におけるSRKはとにかく軽いノリで会話のテンポも速く、相手はそれに巻き込まれる形でSRKの言うことに納得してしまいます。かといって決して軽薄ではなく、どこか達観した雰囲気さえ漂わせているんです。特に三角関係になってからの徹底的なはぐらかし芸が凄い。ここだけでも台詞のセンスの良さを感じさせます。こうして観客は物語の登場人物たちと同じようにSRKに魅せられてしまうんですね。

それと同時に、共演であるローヒト役のサイフ・アリー・カーンにも光るものを感じました。これまで自分が観たサイフの作品は、ニヒルぶってるかコメディ・キャラのどちらかだったんですが、この作品ではちょっとおっちょこちょいながら純なハートを持つ青年を好演します。自分が今まで観たサイフ作品の中ではベストアクトのように思いました。一方ナイナー演じるプリティ・ジンターはちょっと依怙地過ぎるしメソメソし過ぎるので残念ながらそれほど魅力を感じなかった。それとアメリカが舞台ということで時折実にアメリカ〜ンな歌と踊り・演出が入りますが、これはサービスだったのでしょうがあまりいただけませんでしたね。劇中何度も繰り返されるテーマソングは非常に素晴らしく、映画を観終わった後でも頭の中で何度も繰り返してしまいました。

http://www.youtube.com/watch?v=tVMAQAsjsOU:movie:W620