■フライング・ジャット (監督:レモ・デスーザ 2016年インド映画)
(この記事は2016年9月2日更新の『弾よりも速く、力は機関車よりも強く!インドのスーパーヒーロー、フライング・ジャット登場!?〜映画 『A Flying Jatt』』を作品のソフト化に合わせ一部内容を変更してお送りしています)
■インドのスーパーヒーローなんだ!?
バットマン、スーパーマンを擁するDCコミック。アイアンマン、キャプテン・アメリカを擁するマーベルコミック。その他その他、アメリカン・コミックのスーパーヒーローは枚挙にいとまがないが、わが愛するインド映画の世界にもスーパーヒーローは存在する。それは……
ムケーシュ・カンナの『シャクティマーン』!
アニル・カプールの『ミスター・インディア』!
そんなボリウッド・スーパーヒーロー界に新たな名前が追加された。
その名は『フライング・ジャット』だッ!?(やんややんや!)
■鳥だ!?ヒコーキだ!?いやフライング・ジャットだ!?
というわけでインドのスーパーヒーロー映画『フライング・ジャット』です。物語はなにしろスーパーなヒーローが悪を倒す!というもの。分かり易いですね。もうちょっと書くと、シク教徒たちの神木として崇められている木を切り倒そうとする悪徳企業に、神木のパワーを授かった青年が立ち向かうという訳です。インドだからでしょうか、ちょっと神懸かりなんですね。そしてこの物語の特徴的なところは、スーパーヒーローものなんですが、相当笑える要素が持ち込まれている、という部分です。
では出演者を紹介。主人公の青年アマン、そしてフライング・ジャットに『Baaghi』(2016)、『Heropanti』(2014)のタイガーシュルロフ。ヒロイン・キルティに『Housefull 3』(2016)、『Brothers』(2015)のジャクリーン・フェルナンデス。アマンの母にアムリター・シン。悪徳化学企業社長マルホトラにケイ・ケイ・メノン。そしてフライング・ジャットの刺客として送られた凶悪なヴィラン・ラカを、なんと『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)のネイサン・ジョーンズが演じております!こりゃあ『MMFR』のファンも観なきゃだね!監督はコレオグラファーとして知られ『ABCD: Any Body Can Dance』(2013)、『ABCD 2』(2015)も監督しているレモ・デスーザ。
さてその配役たちのビジュアルを申しますと、マコーレ・カルキンをさらにヒネさせたようなスーパーヒーローが平野レミ似のカノジョを守るため、
ちょっと色黒の近藤正臣率いる悪の軍団の最終兵器、ストロング金剛さんと一騎打ちをする、ということになっているんですね。
……すいませんちょっと違います。(でもなんかみんな似てたんだよなあ)
■痛快無比かつインドテイスト溢れるヒーロー映画
脱線ばかりでお許しを。いや、あんまり面白かったもんですから、ついつい悪乗りしてしまいました。こんな愉快適悦!痛快無比!爽快至極!なインド映画もなかなか無いんじゃないでしょうか。それは、大人も子供も楽しめるシンプルなスーパーヒーローものだという部分にあります。それも、ハリウッドのスーパーヒーロー映画とはまた違う、インド映画ならではの要素と楽しさを兼ね備えているんですよ。
この作品の大きな魅力はまずそのコメディ・センスにあります。それも言葉のギャグや泥臭いドタバタやお下劣さによるものではなく、「スーパーヒーローとかいうみょうちきりんなもの」それ自体の可笑しさです。そもそもスーパーヒーローなんてよく考えたら妙な存在です。人智を超えたパワーを持ってるけれど神でも悪魔でも無く人間なんです。だからフライング・ジャットは正義を行ったりもしますがとっても人間臭くで、ドジ踏んだり、忙しくでゲンナリしたり、「なんかオレ、けったいやわぁ」と神妙な顔をしたりもします。最初なんて空を飛べても地上1.5mぐらいを時速3、40キロでしか進まなかったりするスーパーヒーローですよ?家族が不死身なのを面白がってナイフでブスブス刺してくるんですよ?おまけにその家族がコスチュームにああでもないこうでもないとうるさく注文つけまくるんですよ?
そうそう、このフライング・ジャット、家族にスーパーヒーローだって顔バレしてるのもユニークなところですね。アメコミのヒーローは孤高だったり孤独だったりしますが、フライング・ジャットは母親から「あんた頑張んなさい!」とドヤされたり、弟から「コスチュームかっこいいから貸してよ!」とねだられたりとか、和気あいあいです。この辺インドの家族主義とかいうヤツなんでしょうが、逆に欧米の個人主義が介入していないからということもできます。アメリカのスーパーヒーローというのは西部開拓時代の根底に存在した自警団思想の変形であり、新訳聖書的な神の鉄槌の代弁者であるとも言えますが、インドはそんなの関係ありませんからスーパーヒーローの解釈も自ずと違ってくるわけです。そしてこの映画ではそれが、シク教徒の歴史性とそこに存在するアイデンティティであることが後に明らかにされ、ここで物語は一挙にただのお子様向け映画ではない凄みを増してくるのです。
■主演タイガー・シュロフの魅力
そしてなんといってもこの作品を素晴らしいものにしているのは主演であるタイガー・シュロフの魅力でしょう。いや、ルックスはなにしろマコーレ・カルキンに筋肉増強剤を20リットルぐらい投与したらこんなになりましたあ、ってな風情なんですけどね、身体能力がハンパないんですよ。タイガー君の前作『Baaghi』(2016)でもまるで香港アクションやタイ・アクションを見せられているような凄まじくキレのいいアクションを見せてくれて惚れ惚れしましたが、今作ではなんとブルース・リーのマーシャル・アーツで勝負するんですよ!まあ実際どこまでモノホンのマーシャル・アーツなのかオレは分からんのですが、主人公アマンは学校で武術教えてるし部屋にはデカデカとブルース・リーのペインティングしているし、すっかり成り切っているのは確かですね。ものその動きの素早さ体のしなやかさ、今インドでこれだけのアクションを繰り出せるのはひょっとしたらタイガー君が一番かもしれません。
そしてその身体能力の高さに裏打ちされたキレッキレ踊りですね。踊りの上手さ、というよりも格闘家ならではの筋肉の俊敏さが踊りを際立たせているんですね。しかも今回はコレオグラファーでもあるレモ・デスーザが監督しているわけですから、画面に登場する踊りが楽しくない訳がないではありませんか。踊ってよしアクションよし、さらに今作ではコメディまでキッチリこなし、これはもうインド映画界の新たなスターの誕生と言わざるを得ません。ウィークポイントだったマコーレ・カルキン似のルックスも、出演作を重ねるごとにどんどん男臭くなり、そんな男臭さの中から時折見せる笑顔がまた可愛いんですよ!ただまあ甘いマスクってわけではありませんのでロマンスものには向かないとは思いますが、そんなのは他のインド男優に任せて、ここは徹底的にアクション・スター(とたまにコメディ)としてインド映画界で頑張って欲しいですね!
■(余談)ところでムケーシュ・カンナの『シャクティマーン』ってナニ?
ところで冒頭にインド映画界のスーパーヒーローを並べましたが、その中の"ムケーシュ・カンナの『シャクティマーン』"に「これナニ?」と思われた方もいらっしゃったんじゃないでしょうか。この『シャクティマーン』、実は1997年から2005年にかけてインドの全国ネットTVで放送された、インドでは知らない者がいないという超人気スーパーヒーロー番組なんですね。どうですか?興味が湧きませんか?この『シャクティマーン』、そしてインドのスター・ウォーズと呼ばれる『アーリャマーン』についてオレが解説しまくった同人誌が発売されています!いや実は暗黒皇帝は同人誌でインド(TV)映画の文章を発表していた!?
掲載されているのは「映画評同人誌 Bootleg」の「あなたの知らない映画カタログ」号、その中で「インドTVのスーパーヒーロー」というタイトルでオレが書いています。その他2本のインド映画コラムも書いてるよ!興味の湧いた方、読んでみたいと思われた方は新宿ビデオマーケットで絶賛発売中ですので是非ご購入の程を!
〇『A Flying Jatt』トレイラー
〇このプロモビデオも可愛いです。