■サーホー (監督:スジート 2019年インド映画)
近未来のインドを舞台に、警察・マフィア・大泥棒とが三つ巴となり虚虚実実の駆け引きを繰り広げあうというアクション大作がこの『サーホー』だ。主演にあの『バーフバリ』サーガでバーフバリ王を演じたプラバースが抜擢され、『バーフバリ』サーガを思わせる破天荒な異次元アクションが次々と飛び出すという最新インド映画話題作である。
物語の舞台はまずはムンバイ。200億ルピーに上る大規模な宝石窃盗事件が起こるが、捜査は依然として進まなかった。そこで抜擢されたのが敏腕潜入捜査官アショーク(プラバース)。彼は女性警察官アムリタ(シュラッダー・カプール)と協力し合い難事件に挑む。もうひとつの舞台は悪の街ワージー。犯罪組織の首領ロイ(ジャッキー・シュロフ)が暗殺され、その息子であるヴィシュワクと幹部デーヴラージ(チャンキー・パーンデー)の間で3兆円を越えるとされる資産を巡り抗争が勃発した。そんな中、大泥棒を名乗る謎の男(ニール・ニティン・ムケーシュ)が3兆円の眠る金庫のキーアイテムを強奪しようとしていた。
まずなにより特記すべきは主演であるプラバースのギンギラギンに黒光りした男の魅力だろう。『バーフバリ』では臣民に愛される豪胆な王を演じた彼だが、今作では同じような無敵かつ強力なキャラであるのと同時に、ミステリアスでフェロモン発散しまくりのセクシーさで迫ってくる。プラバース演じる主人公アショークの大胆不敵さとそのカリスマ性は、この物語の大きな核となっているのだ。
そしてそのアクションだ。冒頭から『ザ・レイド』や『トム・ヤム・クン』を思わせる階層上昇型のアクションで度肝を抜き、炸裂する熾烈なカーチェイスは『ミッション・インポッシブル』や『ワイルド・スピード』シリーズもかくやと思わせるアクロバティック極まりないチェイス・シーンを見せる。肉体vs肉体の戦いでは鬼神が乗り移ったのかとさえ思わせる神懸り的な超絶殺法を繰り出し、身体は宙を舞い壁を突き抜けてゆく。さらになんと、今作では空まで飛んじゃうではないか!?なにしろもう全編に渡りやり過ぎ!?な何でもアリ感に満ち溢れ、「不可能の無い男アショーク」の超人振りにひたすら歓喜し感嘆し平伏してしまう、というのが本作なのだ。こんな具合にあまりにとんでもない展開が連発されるもんだから、クライマックスの辺りでオレは笑いが止まらなくなってしまったよ!
しかし『サーホー』はこのようなマッチョなアクションのみに終始する作品では決して無い。物語には様々な伏線が張り巡らされ、陰謀と計略が複雑に絡み合い、敵と味方はいつしか逆転し、誰が信じられる者なのか否かが錯綜し始め、どんでん返しに次ぐどんでん返しの連続には息つく暇さえない。単純なアクション映画だと思って舐めてかかると痛い目に遭ってしまう、そんな精緻なシナリオの妙味もまた技ありという作品でもあるのだ。こうしたいわゆる叙述トリック的な物語作りは実はインド映画では多く見られ、あまり語られないインド映画のもうひとつの魅力でもあるのではないかと思うのだ。
共演者としては、ヒンディー語映画でお馴染みのジャッキー・シュロフが出演し、これまた黒光りした悪の魅力を発散しているのも見所だし、同じくヒンディー語映画の名バイプレイヤー、ムラリ・シャルマの出演も嬉しい所。謎の大泥棒役を名作『プレーム兄貴、王になる』でアジャイ王子を演じた色男ニール・ニティン・ムケーシュが演じていることも見逃せない。ヒロインを演じるシュラッダー・カプールは『Haider』『Baaghi』を始め、今年日本公開予定の『きっと、またあえる』に出演を果たしている人気若手女優で、今後注目だろう。監督のスジートはこれが長編2作目となる新人監督だが、まだ29歳!?という若さにもかかわらず恐るべき才能を披露してくれた。
というわけでアクション・エンターティンメント作品として100%どころか1000%ぐらいにみっちりこってり面白さが詰まった『サーホー』、オレは充分に堪能出来たな!『バーフバリ』シリーズのキャッチフレーズは「王を称えよ!」だったが、この『サーホー』はさながら「サーホー万歳!」といったところかな。とはいえ「サーホー」って「万歳」って意味なんだけどね!サーホー万歳!