凶悪なテロ組織を追い詰めろ〜映画『Phantom』

■Phantom (監督:カビール・カーン 2015年インド映画)


凶悪なテロ計画の存在を察知したインド諜報局は、テロ組織撲滅のために一人の男に隠密作戦を託した。2015年にインドで公開された映画『Phantom』は国際諜報の世界を舞台に展開するアクション・スリラーです。主演は『エージェント・ヴィノッド』でも諜報員を演じたサイフ・アリ・カーン、ヒロインにカトリーナ・カイフ。監督は『タイガー 伝説のスパイ』、『Bajrangi Bhaijaan』のカビール・カーン。

《物語》2008年ムンバイにおいて同時多発テロが勃発、多数の死傷者が出す恐ろしい惨事となった。そして7年後、インド情報局R.A.W.は新たなテロ計画を察知しテロ犯排除に乗り出そうとするも、外交問題を気にする政府から作戦行動を押し止められてしまう。そこでR.A.W.は隠密作戦を計画し、その工作員として元軍人のダニヤル(サイフ・アリー・カーン)が選ばれる。彼への指令はテロ犯の逮捕、ないしは暗殺。ダニヤルは第一容疑者を追ってロンドンへと飛び、そこでセキュリティ・エージェントを勤める女ナワーズ(カトリーナ・カイフ)の協力を得ながら行動を開始する。そして二人はテロ犯を追いつつ次第にパキスタンへと導かれてゆく。

映画冒頭に描かれる「ムンバイ同時多発テロ」はインドで実際に起こったテロ事件です。これは2008年11月26日夜から11月29日朝にかけ、イスラム過激派と見られる犯人により、インド・ムンバイにあるホテルや鉄道駅など複数の場所が銃撃、爆破されたテロ事件で、これにより死者 174人、負傷者 239人にのぼる痛ましい被害を出しました。映画『Phantom』の冒頭でこの「ムンバイ同時多発テロ」が取り上げられたのは、この事件に重ね合わせてテロ組織粉砕の物語を描きたかったからなのでしょう。そしてインドは、実はこれ以前にも非常に多くのテロ事件が起こっている国なんですね。

こういった「テロ組織対インド諜報機関」を扱った最近のインド映画には『Holiday - A Soldier Is Never Off Duty』(2014)や『Baby』(2015)があり、どちらも記憶に残っています。特に『Baby』におけるバイオレンスの熾烈さなどを見ると、テロの多発するインドでは切実な物語なのだな、と思わせられます。それを踏まえつつ『Phantom』はどうだったかというと、現実の事件を冒頭に持ってきながら、展開自体は通俗的なスパイ・アクションを踏襲した娯楽作だと感じました。

物語の流れは敏腕工作員ダニヤルが周到な準備のもと、ターゲットのテロ犯を意外な方法でひとりまたひとりと葬ってゆく様が描かれてゆき、そのテクニックの面白さで引っ張ってゆく作品なんですね。そういった点で映画『Phantom』は、前述の『Baby』のような重さ、暗さ、過激さがあまり無く、どちらかというとハリウッド・スパイ作品を観ているような軽快なスピード感でもって物語を進めてゆくんですよ。

シナリオ的にはあれこれ疑問に感じる部分があり、物語を盛り上げるためだけに大仰な悲痛さを持ち込んだりといった臭みこそありますが、基本的にはアクションをふんだんに盛り込み気楽に観ることのできる作品だといえるでしょう。テロ撲滅の悲願といった味付けや過酷な運命こそ描かれるにせよ、そんなに深刻に受け取るような作品ではないと感じました。主人公を演じたサイフ・アリー・カーンはニヒルな役柄が板についていましたが、ヒロインであるカトリーナ・カイフの雰囲気は物語内容に対してちょっと甘いかな、と思えてしまいました。

それにしてもこの作品、たまたま例のパリでのテロが起こった日にDVDで観たものですから、ちょっと生々しく感じた部分はありましたね。