最近読んだコミック / 西遊記モノを2作

西遊妖猿伝 西域篇(1)(2) / 諸星大二郎

西遊妖猿伝 西域篇(1) (モーニング KC)

西遊妖猿伝 西域篇(1) (モーニング KC)

西遊妖猿伝 西域篇(2) (モーニング KC)

西遊妖猿伝 西域篇(2) (モーニング KC)

唐の時代の中国。孤独な少年・孫悟空は妖怪「無支奇」に見込まれ、虐げられた民衆の怒りや恨みに触れると、意識が飛んで常人離れした戦闘力が発動するようになる。 殺戮を繰り返す呪われた運命を変えるため、奇縁によって結ばれた旅の僧・玄奘に従い、悟空ははるか天竺を目指す! だが、次々と現れる妖人や怪現象が彼らの行く手を阻むのだった…… 


西遊記」に大胆なアレンジを加えた手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞の大伝奇活劇、日本漫画界待望の第三部!!世に西遊記漫画は数多あれど、最もユニークなるはこの一篇! フィクションと、唐の時代の史実を絡ませた伝奇冒険大活劇にして、おなじみ孫悟空猪八戒も妖怪でなく人間という設定。ただし怪物・妖人・奇現象もてんこ盛りで登場いたします。11年ぶりに始まったこの第二部からお読みいただいても、まったく問題ございません! 第1巻は「流沙河の章」を完全収録。流砂の魔境で悟空や三蔵法師を苦しめる、仮面の男の謎の質問とは!?(第1巻 2009/6/23)


新たに旅の仲間に加わった沙悟浄の案内で、伊吾の国を目指す玄奘一行。だが一夜の宿を借りた地主の家で、血みどろの殺人事件に巻き込まれる。事件の周囲には、人ならぬものの気配が濃密に漂っていた…。羊頭の怪物群やソグド人騎兵隊を相手に、またも孫悟空の金箍棒(きんこぼう)が唸る! いよいよ波瀾万丈なエキゾチック・アドベンチャー!! (第2巻 2010/6/23)

諸星大二郎の大河伝奇漫画『西遊妖猿伝』は1983年〜1997年まで雑誌連載され、単行本16巻が刊行(潮出版社版)されていたが、未完のまま永らく中断していた。お馴染みの『西遊記』を諸星流のおどろおどろしく虚無感に満ちた物語として描いたこの作品は、16巻を費やしてやっと孫悟空一行が中国(当時の唐)から出国したというぐらいだからその長大さの程が分かるだろう。しかもこの段階では沙悟浄がまだ仲間に加わっていないのだ!
その『西遊妖猿伝』が中断から11年の時を経て「西域篇」として蘇り、再び物語が語られることとなったのを知ったときは正直驚いた。一応前巻までの「大唐篇」は出版時リアルタイムで読んではいたが、執筆開始から27年ということは、単行本の1巻目を手にとったのはオレがまだ20歳そこそこだった頃ということになるではないか。そして執筆中断がオレの30代の半ばの時期、さすがにこのブランクだと細かい話はすっかり忘れている。巨大な猿の妖怪「無支奇」が孫悟空に「この世をカオスにするのじゃあ!」とか命令していたようなお話だったとは思うが。
しかしそこはさすが誰もが知っている『西遊記』がベースなだけあって、前巻までのお話をすっかり忘れていてもこの「西域篇」はすんなり読むことが出来た。要するに前巻「大唐篇」までで語られていたことというのは、「孫悟空一行は苦難の末唐をあとにした」ということだけ分かっていればなんとかなる(と思う)!
この「西域篇」ではまたしても砂漠での旅が続けられるが(というか諸星といえば砂漠だよなあ)、唐を出ることにより人種・文化圏が少しずつ変化してきているのが面白い。この1、2巻ではソグド人と呼ばれるイラン系民族とその植民地の様子がちらほら描かれはじめている。ソグド人というのはシルクロードで中継貿易により栄えた民族らしく、自らの国を持つことはなかったが、シルクロード交易において非常に重要な役割を果たしたのだという。彼等が信仰したゾロアスター教もまたここで描かれ、物語はこれまで以上にエキゾチックな展開を迎える。
実は「大唐篇」を読んでいた時は全く気付かなかったのだが、この『西遊妖猿伝』は天竺に向かう玄奘を描くことにより当時のシルクロードの旅とはどういうものだったのかを描く話だったんだな。その中で中国妖怪「無支奇」を背中に背負った孫悟空は、様々な民族との肉体的であると同時に観念的な対立と戦いを繰り広げる役割を担っているんだ。そして対立と戦いを描くことで、様々な文化の輪郭をより鮮明に浮かび上がらそうという目論見なのかもしれないな。まあ単に活劇を描きたかっただけだとは思うけど。
お話の展開は「大唐篇」より若干早いような気がするし、あまりごちゃごちゃしていないところがいい。しかし多分今のところの舞台は現在の新疆ウイグル自治区あたりだと思うが、天竺に着くのはあといったいどの位、単行本何巻が費やされるのか…。諸星大二郎のライフワークとはいえ、どことなくダラダラ続いてきた部分もあるような気もするので、ここらでサクサク進めて欲しいところではある。

■西遊奇伝・大猿王(1)(2) / 寺田克也

当代きってのCG絵師、鬼才・寺田克也によって、あの『孫悟空』が斬新なアンチヒーローに生まれ変わった。「釈迦を殺す!」全編オールカラーで描かれるバーバリズムと壮麗な色彩の饗宴!(1998/12/18)
業界を震撼させた話題作の第2巻がついに!CDアートの先駆者、寺田克也の超フルカラーCGコミックスの第2巻が登場!! 本誌掲載時はモノクロだった原稿に着色を施し、その魅力をさらに増幅させた。待たせたが、それだけ充実した内容に!! (2010/6/18)

こちらはイラストレーター・寺田克也による西遊記。こっちのほうも第1巻が1998年に出て、第2巻がついこの間という、いったいこの12年何やってたんだ、と言いたくなる展開で、実はそもそも存在していたことすら忘れていたのだが、とりあえず第2巻を入手。今でこそフルCGのイラストなんて少しも珍しくもないんだが、第1巻が出た98年あたりだとまだ「CGイラストカッッケエ!」というバリュー感満載だったなあ。内容は寺田タッチで描かれた実にグログロな孫悟空一行やクリーチャー、そして幻想的な世界のイラストを堪能するといったもので、ぶっちゃけお話はそれほどたいしたもんではない。孫悟空がバケモノと出会う→孫悟空がバケモノをたたき殺す、ということだけが特にひねらず毎回描かれている。アート的には良くも悪くも寺田ワールド全開で、要は寺田アートを心ゆくまで堪能したい寺田マニア専用ということでいいんではないかと思う。