深海のYrr(イール) (1) (2) (3) / フランク・シェッツィング 【後篇】

前回からの続きです。最初に書いておくが、今回は殆ど無駄話だ!

■Yrrが出て来て 今日は

しかしこの物語を読んで思い出したのは手塚治虫のコミック『ミクロイドS』だ。アニメ化もされているようだが、ここは原作マンガの話でいうと、『ミクロイドS』っていうのは世界中の昆虫たちが人類に反旗を翻して、地球が滅亡の危機に至る、という物語なんだね。その昆虫達を操るのは異常進化した蟻の一族だったりするんだが、たかだか昆虫と思いきや、組織化されて攻撃する昆虫たちが実に怖いんだ。毒虫が人を刺し、甲虫でさえ人の呼吸器官に潜り込んで窒息させる。よくあるヒーローものではない、科学考証のしっかりしたパニックマンガとして仕上がっていたと思う。背景には人間達の自然破壊という問題が存在するという部分で、『深海のYrr』と実は同工異曲の物語とも言えるんだよ。こんなマンガが『深海のYrr』の30年も前に描かれていたんだね。だから『深海のYrr』は長そうだな…と思って敬遠している人は『ミクロイドS』を読めばいいかも知れない!

さてこの”Yrr=イール”って名前、主人公がなんとなく付けた名前なんだが、イール(Eel)って言うぐらいだからウナギなのか!?これは深海ウナギの物語だったのか!?とも思ったが、原著はドイツ語だからウナギのことをイールとは言わないだろうなあ。調べたらドイツ語ではウナギはAalって書くらしいけど読み方分からんわ。でも何の根拠もなく断言すると、”のらりのらりとのたくるもの”ってイメージなんじゃないですかね?ちなみにドイツ語原題の『Der Schwarm』は英語に翻訳し直すと『The Swarm』、即ち”群れ”って意味らしいですけれどね。まあオレのようなホラー映画ファンに言わせれば ”Swarm”と聞いたら、ミミズやらゴカイやらがうにょうにょぐちょぐちょ大量発生して人間を襲うという映画『スクワーム(Squirm)』を脊髄反射で思い出してしまうがな!

■人類一緒に 滅びましょう

登場人物たちはその描写のせいもあって誰もが魅力的。しかし主人公の一人であるシグル・ヨハンセンはノルウェーの工科大学教授・海洋学者ということだけれど、こいつがワインに詳しくてオシャレで嘘みたいに女に持てて、おいおいこんな科学者ってホントにいんのかよ!?と茶々を入れたくなるようなカッコよさだったのがちょっとナニな気がした。一方、環境保護運動家として登場するジャック・グレイウォルフは、最初胡散臭い強硬派の環境論者として描かれるが、物語が進むにつれ悲痛な過去が明らかになってゆき、実はかなり複雑な性格を持った人物であったことが分かるにつれ、物語内で俄然株が上がってゆくところが面白かった。とはいえ、クライマックスではなにしろいろんな人間が死んでしまい、この作者ってカタルシスのためには平気で登場人物殺すやつだなあ、と思ってしまった。

エンターティメント小説として読むならば読みやすく安定した面白さを持つ傑作だと思います。地球科学や最新科学機材の描写も実にきちんとしていて悪くない。ジャンルとしてはSFというよりは、やはりサスペンス・アドベンチャーとしての側面のほうが強いかな。まあジャンルなんてどうでもいいんだけれどね。3分冊を一気に読む楽しさもあると思うので、読もうかどうか迷っている人にはお薦めしていいかもしれない作品です。

■(おまけ)こんな『深海のYrr(イール)』はイヤだ!

  • 深海のウール…海底でメーメー鳴いているヤツがいる!
  • 深海のオール…深海で徹夜はイヤだ!
  • 深海のカール…ずぶ濡れで食えないカール!
  • 深海のメール…海の底からあなたにメールが届く!
  • 深海のセール…幾ら安くても深海まで行けない!
  • 深海のタール…どろどろだ!
  • 深海のヒール…思いっきり踏ん付けてえええッ!
  • 深海のフール…海底のバカ!

お粗末さまでした…。

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