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■深海ぐらぐら どんぶりこ
『深海のYrr』である。深海に存在する”何か”のせいで人類が滅亡の危機に立たされる、という海洋冒険SFサスペンス小説である。原著の発行されたドイツでは『ダ・ヴィンチ・コード』とベストセラーの座を競いあい、200万部を売り上げたんだという。ベストセラー小説には興味の無いオレではあるが、SF小説ということで読んでみる事にしたわけだ。しかしこの『深海のYrr』、なにしろ長い。本国ではハードカバーで1000ページあるらしく、この邦訳版では3分冊で総ページ数は1500ページを軽く超えている。本を読むのが著しく遅いこのオレが読み通すことが出来るのか?とかなり不安に思い、本も3巻同時に購入せず取り合えず1巻目だけ買い、1日100ページのノルマで読み進めることにしたのだが、蓋を開けてみるとこれが読み易い読み易い。遅読のオレが100ページノルマで問題無く読めたということは、本好きで読むのが早い方はひょっとして1日2日で読み終わってしまうんではないか。
この読み易さは、内容が薄いのではなく、エンターティメント小説としての骨子がしっかりとしているということだろう。なにしろ物語の展開がストレートなのだ。起承転結というオーソドックスな流れからまるで逸脱することなく、ページ配分を誤らず、一気に物語が進んでゆくのだ。かと言って一本調子にならないのは、話に膨らみを持たせる為に、登場人物たちの背景や人物描写に多数のページを費やしていているからだろう。その分ページ数は多くなっているのだろうが、登場する膨大な人物のその描写が、物語に絶妙のリアリティを持たせているといっていいだろう。「ええ!?そんなに沢山の登場人物が出てくると、かえって物語が煩雑にならないか?しかも全部名前憶え切れないぞ!」と仰る方もいるかもしれないが、心配は要らない。実は、登場人物の殆どは、どんどん死んでいってくれるのだ!うわああ、情け容赦ない物語だな!
■世界が危機だよ さあ大変
どんどん死んでゆく登場人物、というぐらいだから物語で描かれるカタストロフの描写は相当のものだ。大陸棚で発見された新種のゴカイの群れ、という導入部から物語は始まるが、その新種のゴカイの為に、物語中盤で北部ヨーロッパ一帯はなんと壊滅してしまうのである。なぜゴカイのせいで?というのは読んでのお楽しみ。その後あれこれあって地球は本当に滅亡の危機に至ってしまうのだが、これがゴカイだのカニだの貝のせいだっていうのが面白い。実はこれら攻撃的な新種の海棲生物の背後には”Yrr”とその後呼ばれる”何か”の存在が関係してくるのが分かってきて、地球エコロジーを巡る一つの戦いだ、という図式に物語は進んでゆくのだ。まあ、クジラやシャチが暴れまくる冒頭は、なんとなく「たかが海棲哺乳類だろ?」とたいして怖くも無かったし、捕鯨問題とかエコロジーがあれこれ書かれているのもちょっと白けたけどな。
物語のもう一つの読みやすさは、登場人物の描かれ方のステレオタイプ振りにも表れているだろう。主人公をはじめとする科学者達は知的でリベラルで理性的な描かれ方をするいわばヒーローだが、彼らと組んでYrrの調査に当たるアメリカ情報部と軍部は醜悪で狡猾で信用の置けない悪役として登場するんだね。科学者=善、国家・軍部=悪という図式の古臭さは物語としてはどうかとは思うけれども、長丁場の物語をあまり複雑にせずテンポ良く読ませるのには一役買っていたと思う。でも後半、悪役である軍部が暴走する様子は、物語をちょっと安っぽいB級なアクションドラマにしてしまっていたかもしれない。また、ハリウッドSF映画への言及が多々あり、これは当然そういったSFドラマを意識していたからなんだと思うけど、これも物語を分かりやすくするのと同時にイメージをありきたりなものにしてしまったきらいがあるかも。
さて今回のレビュー、例によって意味も無く長〜い文章になってしまったので、前後篇2回に分けて更新することにします。たいした内容じゃないんだがねえ…。なんかダラダラ書いちゃうんだよねえ…。では次回に続きますぅ〜。
(つづく)