”脂坊主”

 
オレの会社の後輩に『う』という男がいるんだが、こいつがラグビーで鍛えたムキムキの体に太い首、その上に剃り跡も青々しい坊主頭が乗っかっており、いくらぱりっとダークスーツを着たところでサラリーマンというよりはプロレスのプロモーターかその筋の人にしか見えないという男なのである。おまけに私服ときたら作務衣に雪駄、それにぶっといゴールドのネックレスにかまぼこ指輪という、町で会ってもあまり目を合わせたくないワードローブでキメているのだ。そんな洒落者の彼の渾名は『あぶらぼうず』という。坊主頭が脂でテカりギラギラと怪しく輝いているからである。漢字で書くと『脂坊主』である。
その彼から電話が入り、仕事の話かと思えばなにやら違うようだ。「聞いてください。三陸沖でオレが獲れたそうなんですよ」「なんじゃそりゃ」「いや、その名も”アブラボウズ”という魚がいるらしくてね。オレの渾名と同じじゃないですか」「おお〜それはまた面妖な」オレの頭には真っ黒な頭を脂でテカらせた巨大な海坊主の顔が海面からニュッと顔をのぞかせている姿が目に浮かんだ。当然その顔つきは『う』の顔をしている。「でね、その魚、脂が多くてあんまり食用に適さないらしく、食べると腹壊すらしいですよ!ワハハ!」「…『う』よ。食えないところもいつも腹壊している所も君と似ているな…」こうしてオレの後輩は三陸沖に自らの遠い親戚を見つけたのであった。『う』よ、多分君の進化の系統樹の下には絶対”アブラボウズ”がいるな。君と”アブラボウズ”はきっと同じDNAをしているに違いない、とオレは思ったのであった。
(写真は『アブラボウズ』と後輩『う』の比較画像)