包丁を研ぐ男

先日訳あって錦糸町に出掛けていたオレである。
新しいショッピングモールが出来たらしく、それの偵察だった訳なのだが、基本的に錦糸町というのはオレがそうそう足を踏み入れる場所ではない。
しかしこの錦糸町、オレの後輩の暗黒破廉恥密教坊主『う』のシマではないか。
某社会では他の組のシマに入ったならば挨拶の一つでもしなければ仁義に欠けるとされている。
と言う訳で挨拶代わりのメールを『う』に送る。そうすると『う』から返信が来る。
「大人の町で昼間っから何してるんですか?まさか昼のピンサロデビューっすか?」
…随分な挨拶である。
彼の論理では錦糸町=ピンサロという方程式が成り立つらしい。
ってか、行ってねーっつーの。
そういう『う』、何してるのかと思えば
「今築地に包丁研ぎに行ってるとこっす!」
…だとか。
そういう『う』こそ昼間っから市場で包丁研いで何の商売してるんじゃい!
ってかあいつ、ドス研ぎに行ってるんじゃないだろな!
と彼の人相風体日頃の行動を鑑みてオレなどは一人想像するのであった。


後で訊くと実際は優秀な研ぎ師がいるのらしい。
帰りは築地の市場で獲れたての安い海鮮を仕入れて夕餉に供していたとか。
返す返す御呼ばれしてただ飯にありつけなかったことが悔やまれるオレであった。