血は冷たく流れる / ロバート・ブロック

血は冷たく流れる (異色作家短篇集)

血は冷たく流れる (異色作家短篇集)

早川異色作家短編集、8巻目です。様々な作家の様々な作風で楽しんできた異色作家短編集ですが、癖があったり作品として古臭い巻も多かった。所謂妄想の物語だったりホラ話だったりしたわけです。そこがまた「奇妙な味」と言われる所以なのでしょう。しかしこのロバート・ブロックは割といろんな方にお薦めできるんじゃないかと思います。


ロバート・ブロック、誰もが知る『サイコ』で有名な作家です。(とか言って読んでない…。)この短編集でも最初の数編などはずばり『狂気』をテーマにした作品が軒を連ね、作者の手腕発揮と言ったところでしょうか。「奇妙な味」というよりもむしろ多彩なジャンル小説の傑作短編集と見たほうがいいでしょう。なにしろ緊張感、サスペンスの盛り上げ方が上手い。


収録されている作品のジャンルも多岐に渡ります。オチの素晴らしい『芝居を続けろ』、ジャングルの奥深くに潜伏する犯罪者たちを蝕む狂気『治療』、映画産業を舞台にした『ベッツィーは生きている』はダークな犯罪小説。『ショウ・ビジネス』では寂れた田舎の閑散とした食堂で、店長に囲われている若い娘が訪れた主人公に「私を連れて逃げて」と懇願する。荒廃と頽廃のノワールテイスト。どの作品でも登場人物がクール。


『野牛のさすらう国にて』はSFですが、人類滅亡後の世界で野牛のみが地の果てまで続くほど繁殖しているビジョンが何より圧倒的。ラストはきちんとした文明批判まで盛り込まれ、筆致も実にこなれている。『あの豪勢な墓を掘れ!』はジャズを題材にしたホラー風味、また『うららかな昼下がりの出来事』のような『不思議の国のアリス』を題材にしたコミカルな物語も書いている。


これらの多彩な題材をどれも高い水準で書き分けられる所に作家として実にプロフェッショナルなものを感じます。これはそのジャンルに対するロバート・ブロックの批評眼が優れているからなのだろうと思う。ファンというほどでもないのですがヒッチコックを思わせる部分もある。どれも切れ味の鋭く、オチのよく効いている作品が並んでいます。そして時代性を感じさせない。この短編集『血は冷たく流れる』はロバート・ブロックのショウケイスでありベストセレクションとして読めるのではないでしょうか。