狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇

早川異色作家短編集第18巻はアメリカ作家を中心とした”奇妙な味”のアンソロジー。個々人の作家を編集したこれまでの17巻は以前刊行されていたものの再版なのだが、このアメリカ篇アンソロジーと、これに続くアンソロジー2冊は、今回の全集再版に際して新たに編集された巻となる。つまり、全く新しい『異色作家短編集』が読めると言うわけだ。しかも驚いたことに著名作家が軒を連ねているにも拘らず、ここに納められている作品は全て本邦初訳であるという。この短編集だけでもフリッツ・ライバーハーラン・エリスン(!)、R・A・ラファティトーマス・M・ディッシュ、アブラム・デイビィットスンと、SFファンなら卒倒しそうなぐらい豪華なラインナップ!よくもまあこれらの作家の未訳作品を見つけてきた、と言わざるをえない。まずは早川書房の英断に拍手を送りたい。それでは作品を紹介します。
・ジェフを探して/フリッツ・ライバー…酒場を舞台にした幽霊話。どこか都市伝説めいたダークで冷たい感触がぞくぞくさせる。
・貯金箱の殺人/ジャック・リッチー…「おじさんはプロの殺し屋ですか」。ある少年が27ドル50セントで殺しを依頼する冒頭からいい。
・鶏占い師/チャールズ・ウィンフィールド…南の島に保養と執筆を兼ねてやってきた作家が怪しげな呪術に翻弄される物語。
・どんぞこ列車/ハーラン・エリスン…下劣なチンピラが根城にしている貨車に若いカップルが乗車してきて…。ハーラン・エリスンらしい全編緊迫に包まれたクライム・ストーリー!
・ベビーシッター/ロバート・クーヴァー…ベビーシッターでやってきた少女とその雇い主の男、そして少女のボーイフレンドの一夜の出来事。虚とも実とも付かない各々の性的妄想が時間軸の混乱したまま細切れにばら撒かれる、という実験作。
・象が列車に体当たり/ウィリアム・コツウィンクル…タイトルのまんまなんだが、だからこそ「なんじゃこりゃ?」と唖然としてしまう恐ろしく奇妙な一作。
・スカット・ファーカスと魔性のマライア/ジーン・シェパード…独楽で戦いを繰り広げる少年達の魔術的なドラマ。S・キングなんかが書きそうなノスタルジックな味わいもいい。
・浜辺にて/R・A・ラファティ…貝に魅入られ貝と過ごす少年は次第に貝に似てきて…。ラファティらしいナンセンス極まる奇妙奇天烈な物語。
・他の惑星にも死は存在するか?/ジョン・スラデック…チープな60年代風SFとスパイスリラーがスラップスティックなコミックのようにパッチワークされた怪作。
・狼の一族/トーマス・M・ディッシュ人狼と化した少年とそれを見守る木の精との童話風物語。落ち着いた語り口調がこの短編集では逆に異彩を放つ。
眠れる美女ポリー・チャームズ/アブラム・デイビィットスン…ヨーロッパの架空の国を舞台にした、見世物小屋眠れる美女を巡る妖しく悲しい物語。主人公の博士を中心とした本邦未訳のシリーズ物の一篇らしいが、これは全部読みたくさせる逸品です。