嘲笑う男 / レイ・ラッセル

嘲笑う男 (異色作家短篇集)

嘲笑う男 (異色作家短篇集)

早川異色作家短編集第16巻。作者レイ・ラッセルはそれほど邦訳も無く、馴染みの薄い作家ですが、この短編集では伝奇やミステリ、ホラー、SFなど扱われるジャンルは幅広く、そこそこ楽しめました。ただSF作品については何も舞台が火星や未来じゃなくともいいのになあ、という作品や、同じプロットを使いまわした作品が幾つかあって、その辺アイディアに欠ける部分があるかもしれません。


レイ・ラッセルの作品に共通するテーマは陰謀、謀略でしょうか。彼の小説の登場人物たちは復讐であれ犯罪であれ、皆なんらかの企みを巡らせ、虎視眈々と相手の足下を掬い死や失脚や不幸の穴倉へ陥れようと狙っています。全体的に重々しい語り口調が特徴で、ゴシックテイストな世界、シェークスピアなど古典文学を引用した物語が得意なようです。また、最初から語られていた物語がラストで視点が変わり、実は思いもよらぬ物語だった、という構造を持った作品も多いです。ただその手法が多用されるところをみると、それほど器用な作家ではないという気がします。


幾つか作品を紹介します。
『サルドニクス』はこの短編集の中でも結構長い(80Pぐらい)作品ですが、もう少しシェイプしてもよかったかも。古城を舞台にした古めかしい雰囲気は好みの分かれるところでしょう。
『永遠の契約』は演劇界の裏側で蠢く妖しい影を、『レアーティーズの剣』は同じく演劇界での嫉妬と殺意を描き、『檻』は中世の城を舞台にした淫蕩でおぞましい物語。どれも暗い雰囲気がよい。
『アルゴ三世の不幸』はSFのようですがアイディアは面白いけれども途中で息切れしたような終わり方がとても惜しい。
変わって『モンタージュ』は中央集権政治下のソビエトが舞台ですが、映画監督らの足の引っ張り合いの結末が実に見事。
『深呼吸』はサブリミナル広告をテーマにした作品。40年も前の作品ですが当時既にそういう概念はあったんですね。
『役者』『遺言』は同じモチーフのワンアイディア・ストーリーといったところか。
『バベル』『おやじの家』『バラのつぼみ』『ロンドン氏の報告』『防衛活動』もSFですが多少凡庸か。
うーん、あまりSFは上手くない作家ですね。SFというよりも旧約聖書あたりの記述を焼き直して物語にしたものが多かったです。