炎のなかの絵 / ジョン・コリア

炎のなかの絵 (異色作家短篇集)

炎のなかの絵 (異色作家短篇集)

早川異色作家短編集、第七巻です。


これまでの異色作家短編集では不安や恐怖をを扱った所謂”奇妙な味”の作品が多かったのですが、この短編集は”奇妙な”というより”変な”物語が多いです。登場人物たちは誰もがみな眉間に皺寄せ額付き合わせてはいがみあっているような人間ばかりで、会話でも「!」「?」が多用されるようなところから判るように直情的な性格。不可解な理由からどたばたしているうちに妙な結末へと到ってしまうんです。これらのある意味ラテン系な人たちの織り成すスラップスティック、これがジョン・コリアの短編の特徴でしょうか。


また、文章スタイルも主題と関係のない横道に逸れている様なエピソードや書き込みが続くので読み辛かったりする。しかし、この一見無用に見える書き込みの多さが作者の手で、これに気をとられていると気づかぬ方向からいきなりドンッ!と結末を叩きつけられる。面白い作家です。


なにしろ冒頭の『夢判断』で掴みはバッチリ。39階のビルの2階にある精神科医の元へ、最上階である39階に住む男が治療に訪れる。「先生、38日前からこのビルから飛び降りる夢を見るんです。毎日1階分ずつ落ちていって、昨日、2階にあるこの精神科まで差し掛かってしまいました。僕は明日、地面に激突するんでしょうか?」…さて物語の結末やいかに。


「記念日の贈り物」「ある湖の出来事」「クリスマスの出来事」などなど、皮肉の効いた短編に手腕を発揮しています。あとどの作品も夫婦の仲が悪いですねえ。案外作者の体験から来ているのか…といった見方はちょっと意地悪でしょうか。まあ、作品自体も”いじわる”な性格だけれど!


あと「マドモアゼル・キキ」の猫、「鋼鉄の猫」の鼠、「ギャビン・オリアリー」の蚤、と、生き物を使った、または主人公の物語も面白かった。